2022年7月号
特集
これでいいのか
対談
  • 米カリフォルニア州弁護士(左)ケント・ギルバート
  • ことほぎ代表(右)白駒妃登美

「君が代」の心を
忘れないで

日本の国歌である「君が代」。その原歌が1100年前の『古今和歌集』に収録された、愛する人の長寿と幸せを願う歌であることを知る人は少ないだろう。アメリカ人弁護士の立場から日本の素晴らしさを伝え続けるケント・ギルバートさんと、〝博多の歴女〟として活躍する白駒妃登美さんには、「君が代」イコール軍国主義というイメージが日本人に根深く浸透する現状を踏まえて、「君が代」に込められた先人たちの本当の思いを説き明かしていただく。

この記事は約25分でお読みいただけます

連綿と受け継がれてきた皇室の歴史

白駒 きょうはお忙しいケントさんに、こうしてお時間を調整していただき、ありがとうございます。

ギルバート とんでもない。しらこまさんから直接お声を掛けていただけるなんて、とても光栄に思っています。

白駒 日本の文化や歴史について、日本人以上にお詳しいケントさんと親しくお話ができるというので、とても楽しみにまいりました。
ケントさんに最初にお目に掛かったのはもう何年も前、北九州市で開かれた憲法記念日のイベントの時でした。私は参加者の一人としてケントさんのお話を伺っていて、懇親会でお隣の席になったのですが、将来、このような対談をさせていただけるようになるとは夢にも思っていませんでした。
その後、共通の知り合いが開いた忘年会で二度目にお会いしまして、私のモットーは上品な図々しさなので(笑)、「私が主催しているオンラインの勉強会にぜひご登壇ください」と果敢にアタックさせていただいたんです。その希望がかなったのが今年(2022)の1月でした。

ギルバート ちょうど僕がアメリカから帰国した直後、コロナ感染防止のための二週間の隔離期間中でしたね。隔離中のホテルの一室から講演するなど滅多めったに体験できることではありませんあ(笑)。

白駒 「ケント・ギルバートの日本文化論」というテーマで講義をしていただきましたが、素晴らしい内容で、私にとっては驚きと納得と感動の連続だったんです。
最初にケントさんが見せてくださった映像が、衝撃でした。日本の歴代天皇、つまり初代じん天皇からきんじょう陛下に至るまでの2600年以上の流れの中で、世界はどのように変化したかという映像でした。世界中で次々に国が生まれてはなくなっていく中、日本だけが変わらずずっと存在している、それは世界に誇るべき歴史です。頭では分かっていましたが、映像でそれを見せていただくと、改めて日本の国の伝統の素晴らしさを思わずにはいられませんでした。

ギルバート 様々な権力闘争はあっても、皇室の歴史と伝統は連綿として受け継がれてきた。これが日本という国の特徴です。これだけの国は他にないことを日本の皆さんには再度認識していただきたいですね。

米カリフォルニア州弁護士

ケント・ギルバート

Kent Sidney Gilbert

1952年アメリカアイダホ州生まれ。1971年ブリガムヤング大学在学中に宣教師として初来日。1980年ブリガムヤング大学大学院を卒業。米国の弁護士資格を取得して、国際法律事務所に就職し、法律コンサルタントとして来日。1983年テレビ番組「世界まるごとHOWマッチ」にレギュラー出演し、人気タレントとなる。現在は在日米国人法律家の視点から日本の政治、文化、歴史問題等について活発な言論活動を展開。著書に『天皇という「世界の奇跡」を持つ日本』(徳間書店)『まだGHQの洗脳に縛られている日本人』(PHP研究所)など多数。

異なる文化が融合し理想的な方向に動く

白駒 その映像に続き、ケントさんはご自身が日本を好きな理由を数えきれないほど挙げてくださいました。そして「そこに住んでいる人たちが素晴らしいというのが一番の理由です」とおっしゃり、その一例として東京スター銀行の話をなさいました。とても感動的なお話だったので、ぜひここでもう一度ご紹介いただけませんか?

ギルバート かつて東京相和銀行という第二地方銀行がありました。とても訳ありの金融機関でした。当時の大蔵省から盛んに合併を勧められるのですが、スキャンダルが多くて誰も引き受け手がない。そこで結局、テキサス州のローン・スター・ファンドという投資家の集まりに売られるわけです。もっともローン・スター・ファンドもこれを持ち続けるつもりはないので、ちょっと業績をよくして売却した。それを買ったのが僕の大学の後輩が頭取を務める東京スター銀行でした。
アメリカ人の彼は東日本大震災の直前、仙台に東京スター銀行の支店をつくりました。しかし、津波で流されてしまう。そこで流されなかった都市銀行の二階を借りて営業を始めるのですが、そこに預金を引き出しにやってくるお客さんの中には通帳も印鑑も財布も身分証明書も何もかもなくしてしまった人たちが何人もいました。
どうしたらいいものかと、職員が困って頭取に電話で相談したら頭取はこう答えるんです。「そうですか、うちの銀行のお客さんだと言うのなら10万円までは応じなさい」と。職員が「本当にそれでいいんですか。だって身分証明書も何もないんですよ」と聞き直すと「日本人は混乱に乗じてうそをついたりしないから。それに、わずか10万円でしょう? こういう緊急時はそのくらいしないとね」というやりとりがあったそうです。
それで4、5年前かな? 僕は赤坂にある東京スター銀行本店に用があって行ったんですね。そして担当の人に「あの時、いくら損したんですか」と聞いてみたんです。そうしたら、その人は笑っちゃってね。「ケントさん、損どころか、あの時にお金を引き出すことができた人たちは、この銀行の不動のお客さんになってしまった。こんな安い宣伝費はないですよ」と。そしてこの緊急時の対応が、マニュアル化されたそうです。

白駒 何度聞いても感動します。

ギルバート 道徳心の高い日本人の顧客と合理性を追求する米国人の経営者、いわば異なった文化がうまい具合に融合して、理想的な方向に働いたのだと思います。

白駒 ケントさんの魅力は、単なる日本びいきを超えて世界という視点で冷静に日本のあり方を見つめ、ご自身の思いを伝えてくださることにあります。私の勉強会でも日本人の美徳をたくさん挙げてくださる一方で、外交や国際関係になると、その美徳がむしろ足枷あしかせになる、裏目に出るという話もきちんと話してくださいました。

ギルバート そうでしたね。「外交においては性善説はやめたほうがいい」と釘を刺し、中国人や韓国人、アメリカ人の考え方と日本人の考え方を比較したんです。
子供が出掛ける時、日本のお母さんは「皆と仲よくしなさい」と言います。これが中国人になると「だまされないようにしなさい」、韓国人は「一番になりなさい。人に負けたらだめだよ」。そしてアメリカ人は「悪いことをするな、Be Good」。
こういう何気ない習慣から考えても日本と外国の考え方はまったく違いますし、日本人がどのように諸外国と向き合うべきかが分かってくるのではないでしょうか。

ことほぎ代表

白駒妃登美

しらこま・ひとみ

昭和39年埼玉県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、日本航空に入社し、平成4年には宮澤喜一首相訪欧特別便に乗務。24年に㈱ことほぎを設立、講演活動や著作活動を通じ、日本の歴史や文化の素晴らしさを国内外に向けて広く発信している。天皇陛下(現在の上皇陛下)御即位三十年奉祝委員会・奉祝委員、天皇陛下御即位奉祝委員会・奉祝委員を歴任。現在、教育立国推進協議会のメンバーとして活動中。著書に『子どもの心に光を灯す日本の偉人の物語』『親子で読み継ぐ万葉集』(共に致知出版社)など多数。昨年(2021)「君が代」をテーマにした絵本『ちよにやちよに』(文屋)を刊行。