2020年10月号
特集
人生は常にこれから
対談
  • (左)SBIホールディングス社長北尾吉孝
  • (右)三井住友フィナンシャルグループ社長太田 純

人生の本舞台は
常に将来に在り

緊迫する世界情勢、情報技術の劇的な進化に加え、このコロナ禍で経営を巡る環境は一層厳しさを増している。そうした中、日本を代表するメガバンクである三井住友フィナンシャルグループと、金融界に新たな地平を切り開いてきたSBIホールディングスによる包括提携が発表された。両社を率いる太田 純氏と北尾吉孝氏に、この異色の提携に懸ける各々の思いを交え、いかなる状況下でも挑戦を続けるお二人の情熱の源を探った(写真:SBIホールディングスの会議室に掛けられている扁額「融通四海」の前で)。

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共感から生まれた包括提携

北尾 太田さんとこうしてひざを交えてお話しさせていただくようになったのは最近のことですが、最初にご連絡をいただいたのは去年でしたね。

太田 そうです、10月でした。

北尾 恐らく太田さんのところもそうだったと思うのですが、それ以前から御社との提携についての調査報告が、うちのグループ内からいろいろ上がってきていました。私も自分なりに考えて、一緒に力を合わせればいろんなウィン?ウィンの成果を生み出せるんじゃないかという印象を抱いていた。そんな折に太田さんから「一度お話しに伺いたい」とご連絡をいただいたので、「いえいえ、こちらから伺います」と(笑)。

太田 北尾さんは業界の大先輩ですから、以前からお名前とご尊顔そんがんはもちろん存じ上げておりましたけれども、直接お話しする機会はありませんでした。実際にお目にかかってお話を伺ってみますと、さすがにしっかりした戦略をお持ちですし、方向性も鋭くて、僭越せんえつながら私の考えとも非常に合致している。北尾さんとならきっといいビジネスができるはずだ、とすぐに確信しました。それで2020年の1月に、今度はこちらからお伺いして、御社との提携についての提案をさせていただいたわけです。

北尾 太田さんは非常に決断が早く、物事をどんどん前へ推し進めていかれる。メガバンクでは珍しいタイプのリーダーというのが、その時に私が受けた印象でした。最初の面会からわずか半年後の4月に、包括提携について正式発表することができたのも、太田さんの中に経営者として非常に共感できるものを見出せたこと、そしてこの提携を誰よりも力を入れて推進してこられたのが太田さんご自身だったことが大きいと思います。

SBIホールディングス社長

北尾吉孝

きたお・よしたか

昭和26年兵庫県生まれ。49年慶應義塾大学経済学部卒業。同年野村證券入社。53年英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村企業情報取締役、野村證券事業法人三部長など歴任。平成7年孫正義氏の招聘によりソフトバンク入社、常務取締役に就任。現在SBIホールディングス代表取締役社長。著書に『何のために働くのか』『君子を目指せ小人になるな』(共に致知出版社)など多数。

この大変化を勝ち抜くために

太田 私どもはこの4月から3か年の中期経営計画をスタートさせましたが、これを1年前に立案した背景には、このままでは自分たちは存続できなくなってしまうという強烈な危機感がありました。日本のGDPの伸びは期待できず、私どもがこれまで担ってきた銀行業務も分解して新しい会社が担うようになるアンバンドリング化が進んでいる。お客様の新しいニーズを先取りするサービスを展開していけるよう、自己変革を進めていかなければダメだということで、これから指向すべき3つの方向性を掲げました。
1つは、これからの金融は情報産業化していくだろうと。バランスシートに載っていない様々な情報をいかに収益に結びつけていけるかが勝負と考えます。
2つ目は、プラットフォーマー化です。プラットフォームといえばGAFAガーファ(IT業界大手4社)ですが、これは別に彼らの専売特許ではありません。三井住友銀行と三井住友カードが国内に保有する4,300万の口座も立派なプラットフォームであって、これを活用していかに新しいサービスを提供していくか。
3つ目はソリューション・プロバイダー、つまりお客様が抱える様々な課題にいかに的確な解決策を提供していけるかということ。
今回の中期経営計画には、この3つを指向していくための具体的な戦略や施策が盛り込んであります。新型コロナウイルスの問題が起こる前に策定したものですが、大きな方向性は変わらないと思いますし、御社との提携は証券の分野の中で非常に大きなパーツを占めています。

北尾 基本的な時代認識は、私も全く同じです。特にコロナの時代に入って、投資家にも消費者にも大きな変化が起きていることを実感しています。
例えば、NISAニーサiDeCoイデコといった将来の資産形成に関わる商品の口座数はものすごい勢いで増えている。また、リモート勤務の浸透でオンラインのビジネスが急拡大し、デジタルトランスフォーメーション(ITの浸透でもたらされる変革)を通じて都市構造も従来の一極集中型から分散型社会へと移行し始めています。
元々オンライン証券から出発した当社にとっては、力を発揮しやすい経営環境になってきているとポジティブに捉えていますが、大事なことは、この状況を踏まえた新しいビジネスをいかに速く、他社よりも競争力を持って実現していくかです。我われはこの大変化の中で勝ち抜いていかなければならない。そのためにも、正しい時代認識を持ち、適切な戦略を迅速に打っていかなければなりません。
そういう意味では、御社がこのコロナを先取りして中期計画を立てられたのはさすがです。

太田 デジタル化や地球環境の問題など、私どもがかねて準備してきたことの方向性は、先ほども申し上げたようにコロナ後も大きく変わるとは思っていません。ただ、想定よりも早く事態が進んでいますから、北尾さんがおっしゃるように今後はますますスピードが大事になってくると思います。
ちなみに、私どもの2020年4月のインターネットバンキングやモバイルバンキングの取引件数は、2019年4月比で36%も増えています。それだけ多くの方がデジタルを使った取り引きに急激にシフトしてきているわけです。それから、会社と会社のニーズを結びつけるビジネスマッチングのサービスも、これまでは担当者が間に立って仲介していたのですが、いまはこれをウェブ上で提供しておりましてね。お客様ご自身で新しいパートナーや販路を検索していただけるようにしたところ、このコロナ禍でご利用が急激に増えまして、4,000社が登録して1,000件もの商談が進んでいるんです。
私どもはこうした状況に迅速に対応して、より利便性の高いサービスをどんどん展開していかなければなりません。私もそうなんですが、お見受けしたところ北尾さんも相当なせっかちでいらっしゃる(笑)。お互いに力を合わせることで、スピーディーにいろんなことを展開していけると期待しています。

三井住友フィナンシャルグループ社長

太田 純

おおた・じゅん

昭和33年京都府生まれ。昭和57年京都大学法学部卒業。同年旧住友銀行入行。平成21年三井住友銀行執行役員。27年には新設されたITイノベーション推進部の担当役員として、ベンチャー企業との協業やキャッシュレス決済事業を推進。29年三井住友フィナンシャルグループ取締役兼副社長。31年同グループ社長。