2022年9月号
特集
実行するは我にあり
インタビュー②
  • 日本体育大学体育学部教授岡田 隆

日々の鍛錬が人生を創る

筋肉研究の第一人者であり、現役のボディビルダーでもある日本体育大学教授の岡田 隆氏は、筋肉を鍛える〝筋トレ〟には、健康増進だけではなく、人生そのものを変える大きな力があると語る。筋肉一筋に歩んできた岡田氏に、実体験を交え、筋トレの実践・実行によって、健康で充実した人生を実現する極意をお話しいただいた。

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筋トレを社会実装する

——岡田さんは研究者、ボディビルダー、骨格評論家、さらにはトップアスリートの指導など、多彩な活動を通じて筋肉を鍛える大切さを広く発信されていますね。

一般の方にはあまりみがないかもしれませんが、特に現代社会において筋肉というのはすごく重要な研究テーマなんです。
例えば、日本人の平均寿命(男性約80歳、女性約87歳)は世界最高峰ですが、健康寿命(男性約72歳、女性約74歳)との差はまだ大きい状況にあります。長生きしても健康でいられる期間が短ければ楽しい人生は歩めませんし、医療費も増え続けます。
その健康寿命を延ばす、医療費を減らすという社会的な課題を解決するために大事なのが、まさしく〝筋肉〟なんですよ。なぜかというと、一般的に人間は加齢と共に筋肉が減っていき、だんだん動けなくなることによって寝たきりになる、あるいは筋肉を鍛えないことで病気になって健康寿命が奪われていくからです。要するに、うまく筋肉を保つことができれば、健康でいられる期間も延ばすことができるわけですね。

——ただ、加齢によって衰えていく筋肉を鍛え、保つのは大変なのではないですか。

ええ、専門的にはサルコペニアといって、人間の筋肉は絶対的に衰えていく仕組みになっています。衰えるからこそ、動物は自分自身で食物を取れなくなり死んでいく。しかし、日々の筋力トレーニングによって、筋力の低下にかなりの程度あらがえることが研究から分かっているんです。
実際、筋トレをしている高齢者と何もしていない若者の筋力を比べると、前者のほうが高いという結果が出ています。鍛えている人の筋力は何歳になっても簡単には落ちないし、落ち方もゆるやかになるんですよ。筋トレの継続で百歳を超えた方でも筋肉の成長をうながすホルモン分泌量が増えたというデータもあります。
それに、筋トレをしている人はそうでない人と比べて、死亡・疾病リスクが低いという研究結果もあります。ですから、健康一つとっても筋トレをやらない理由はまったく見当たらないし、なぜ皆やらないのかなって思います。

——体を鍛える習慣が広がれば、日本全体が元気になりますね。

まさにそうで、私は多くの人が筋肉に関するリテラシーを高めて、筋トレを習慣にし、寿命の最期まで健康で充実した人生を送れる社会を創りたいんですよ。
そのために、研究者として知見を生み出し、そして次の世代を担う後進を指導する以外にも、「バズーカ岡田」という異名での活動で発信力を高め、筋トレのよさや方法を広めています。テレビ地上波、YouTube「バズーカ岡田の筋トレラボ」、あるいは書籍などのメディア出演を通じた情報発信への注力です。また筋トレが気軽にできる場所を増やそうと、トレーニングジムも運営していますし、トレーニングマシンの買い取り・中古販売によってジムの初期投資や撤退費用の低減を提供しています。
とにかく、社会の至るところに筋トレに触れる「筋トレ・トラップ」を仕掛け、筋トレを社会実装する、これが私のライフワークだと思って活動しています。

日本体育大学体育学部教授

岡田 隆

おかだ・たかし

昭和55年愛知県生まれ。日本体育大学卒業。日本体育大学大学院体育科学研究科修了。東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。博士(体育科学)、理学療法士。平成28年日本社会人ボディビル選手権大会優勝。令和3年東京オリンピックで柔道全日本男子チーム体力強化部門長として史上最多5個の金メダル獲得に貢献。令和4年より日本体育大学教授。著書に『世界一細かすぎる筋トレ図鑑』(小学館)『「食べる」を増やして、絞る!最高の除脂肪食』(ポプラ社)など多数。YouTube「バズーカ岡田の筋トレラボ」でも情報発信中。