2018年1月号
特集
仕事と人生
インタビュー①
  • メトラン会長新田一福

幸せな人生は
仕事とともにある

新生児向けをはじめ各種人工呼吸器の分野で世界的にも高い評価を受けている医療機器メーカー・メトラン。創業者の新田一福氏は、かつて人工呼吸器の後進国だった日本を、長年月をかけ先進国へと押し上げてきた実績を持つ。祖国ベトナムを戦争で失うも日本で身を立て、いまも新たな医療機器の開発に挑む新田氏が語る激動の半生、そして仕事と人生とは。

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壁だらけの30年

——御社は主に人工呼吸器や麻酔器といった医療機器の開発製造・販売を手掛けておられますが、特に新生児用人工呼吸器では国内にある新生児医療センターの90%で使用されているそうですね。

ええ。ただ、それというのも日本では人工呼吸器を開発製造している会社がほんの数える程度しかないんです。さらに新生児集中治療室に置かれる人工呼吸器になると、国内でつくっているのはうちの会社だけ。それだけに、我われは常にこの分野における最先端を歩んできました。
なぜこのような状況なのかというと、国内の大手医療機器メーカーがリスクを伴う医療機器の製造をものすごく嫌っているからなんです。その証拠に、医療事故に繋がる危険性が比較的低い診断用の機器やリハビリ関係の機器は国産品が多いのに対して、治療用の機器になると輸入品が80%近くに跳ね上がるんですよ。

——治療用になるとそんなに輸入品の割合が高いんですか。

でもそれだけではなくて、例えば人工呼吸器に使う災害用のバッテリーですら、大手メーカーは絶対に使わせてくれません。もし何か命に関わる事故があった場合に、会社の名前が表に出ることを極端に嫌うんです。液晶ディスプレーにしても、こちらがメーカーにお願いしてから社内で案件が通るまで2年もかかる。
そんなわけで、これまで30年以上にわたって人工呼吸器の開発製造を続けてきましたけど、どっちを向いても壁だらけで(笑)、本当に大変でした。

——聞くところでは、新生児の死亡率が世界で最も低い国が日本になっているのは、御社の製品によるところが大きいようですね。

それは決して我われの力だけでそうなったわけじゃありません。あくまでお手伝いをさせてもらっているだけですから。
おかげさまで、僕たちが開発した新生児用の人工呼吸器「ハミングシリーズ」は、現在、世界17か国で販売されていましてね。未熟児の状態で生まれてきた我が子の命を救ってほしいという親御さんたちの願いに、少しでも応えられればと思っています。

メトラン会長

新田一福

にった・かずふく

昭和22年ベトナム生まれ。ベトナム名トラン ゴック フック。高校卒業後、日本に留学。49年東海大学工学部工業化学科卒業後、研修生として泉工医科工業に勤務。52年同社に入社。59年メトラン創業、社長に就任。平成26年会長。29年MAGOS創業、社長に就任。