巻頭の言葉

JFEホールディングス名誉顧問

數土文夫すど・ふみお

算多きは勝ち、
算少なきは勝たず。
しかるをいわんや算なきにおいてをや。
『孫子』始計篇

2025年11月号

特集
名を成すは毎に窮苦の日にあり
酔古堂剣掃すいこどうけんすい』という本がある。

みん末の教養人、陸紹珩りくしょうこうが生涯愛読した古典の中から、会心の名言・嘉言かげんを選び出し収録した語録集で、全12巻から成る。

酔古堂は陸紹珩の雅号で、古人の学問・見識に酔う人ということ。そして、その古人の名言で心の邪気をはらうという思いを込めて、陸紹珩は書名としたのだろう。

『酔古堂剣掃』は幕末、嘉永6(1853)年に翻刻刊行され、たちまち志士の間に流行、明治大正期にもよく読まれたというが、安岡正篤まさひろ師が同書をテキストに講義されており、弊社はそれをもとに『酔古堂剣掃を読む』を出版させていただいた。

本号の特集テーマ

「名を成すはつねきゅうの日にあり

事をやぶるは多くは志を得るの時にる」

もその中に記されている言葉である。

人が名を成す、すなわち成功するのは突然成功するわけではない。必ず窮苦の日があって、それによって鍛えられて成功する。だから、成功するかどうかは窮苦の日の過ごし方で分かる。同じように、失敗するのはたいてい得意・得志の時による。うまくいっていい気になっていて失敗する、ということである。
特集 名を成すは毎に窮苦の日にあり
連載
致知随想