2017年8月号
特集
維新する
対談
  • 一般社団法人子どもの笑顔代表理事岩堀美雪
  • シバ・サンホーム社長柴部 崇

自己を維新する

たった1冊のファイルが
人生を変える

自分の長所に目を向け、自己肯定感を高める「宝物ファイルプログラム」を開発し、学校教育、社会人教育で実績を挙げている人がいる。元小学校教師の岩堀美雪さんである。実際にこのプログラムで社風を変えてきたというシバ・サンホーム社長の柴部 崇氏とともに、自分を変えるために何が大切かを語り合っていただいた。

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求めていた答えがここにあった

柴部 岩堀先生と最初にお目に掛かったのは、ある経営者対象の研修会でした。講師の先生が「元小学校の先生の話だけれど、きっと柴部さんの会社の役に立つと思うから、来ませんか」と言われて参加したんです。その時のお話というのがこれまで聞いたことのない驚くような内容で、うちのスタッフにもぜひ聞かせたいと思いました。それで懇親会の場ですぐに先生のところに駆け寄り、「先生、すぐうちの会社に来てください」と相談させていただいたんです。

岩堀 2015年11月のことでしたね。
それまで「宝物ファイルプログラム」を指導してきたのは主に小学生の子どもたちでしたが、その頃は子どもたちを元気にするためには、子どもたちが将来勤める会社の皆さんにも、子どもたちのご両親にも元気になってほしいという思いでお話しさせていただいていましたので、柴部社長から研修のお話をいただいた時は嬉しかったですね。

柴部 その経営者の研修会で最初に話されたのは子どもたちに伝えてこられたメッセージと同じものでしたが、その内容が経営者であり、一人の父親でもある私の心にポーンと響いたんですね。
私たちの会社は奈良にある社員20名足らずの小さな住宅会社ですが、子育て家族のためにはどのような家が望ましいのか、スタッフは施工主の家族の皆さんにどのように接したらいいのかということがずっと課題として上がっていました。それだけに「自分が求めていたものはこれだ」と強く感じ入るものがあったんです。
実際、我が社の社風は先生をお招きしてスタッフ全員がそれぞれの宝物ファイルをつくり、プログラムを実践することによって大きく変わりました。暗い表情で仕事をしていたスタッフが見違えるようにいきいきと働くようになったり、お客様の評判が格段に上がったりと、今日まで驚くことの連続なんです。

一般社団法人子どもの笑顔代表理事

岩堀美雪

いわほり・みゆき

昭和35年福井県生まれ。福井大学卒業。31年間の小学校教師生活を経て現在、一般社団法人子どもの笑顔代表理事、福井大学子どものこころ発達研究センター特別研究員などを務める。著書に『なぜあなたの力は眠ったままなのか』(致知出版社)など。

いつの間にか自分や仲間が大好きになる

柴部 『致知』の読者の中にはこの宝物ファイルプログラムをご存じない方もいらっしゃいますから、まず先生からどのようなものなのかを簡単にご説明いただいてはいかがでしょうか。

岩堀 はい。宝物ファイルプログラムには子ども版と大人版の2つがありますが、その特徴をひと言でいうと、自分の長所に目を向けて、自分のことが好きになる。つまり、自己肯定感を高めるための具体的で効果的なプログラムだということです。
人間は自己肯定感が低いと他人の顔色ばかり気にして生きづらくなったり、本来持っている力を十分に発揮できなかったりします。高くなると、家族や仲間のことがいつの間にか大好きになり、毎日が楽しくなり、持っている力を十分に発揮できるようになります。そういう人たちを増やして、日本からいじめや鬱病、自殺を減らしたいという思いが私の中にあります。そして、いずれは世界中の人々がお互いの国や宗教の長所を認め合う世の中にしたいのです。
プログラムを行う上で差し当たって必要なのが1冊のクリアファイルです。子ども版であれば、表紙を捲ったところに「みんなによいところがあるから、そのことを忘れないでね」と言って、「自分のことを大好きになろう」「家族や友達のことも大好きになろう」と大きく書いてあるんですが、これは私が子どもたちにこうなってほしいというメッセージです。その後に書くのが、自分が頑張りたいことや夢、願いです。

柴部 子どもたちはどのようなことを書くのですか。

岩堀 「漢字を頑張りたい」とか「100メートル走を頑張りたい」とか。クラス替えをしたばかりの頃だと「知らない人と友達になる」と書く子もいますね。
それを書き終えると、今度はクリアファイルのポケットに自分が好きなもの、残したいものを次々に入れていきます。例えば、楽しかった遠足の写真や頑張った体育大会のリレーの写真、100点の答案、野球が好きな子は自分が使っているバットやグローブの写真、作文等々ですね。
また、友達同士お互いのいいところを大きめの付箋に書いてプレゼントします。皆、全員からもらった付箋を用紙に貼ってファイルに入れるのです。さらに保護者の皆さんにお願いして、お子さんのいいところを書いていただきます。両親からだけでなくお祖父さん、お祖母さんからも「みんなに優しい」「明るい」「家族の体調が悪い時には、すすんでお手伝いをしてくれる」などいろいろな言葉が寄せられて、それらもすべてファイリングするんです。

柴部 いいですねえ。子どもたちも喜んだでしょう。ファイルを何度も見返しながら、自分や家族、仲間が好きになっていく様子が目に浮かぶようです。

岩堀 自分の長所についても考えるのですが、最初は「自分のいいところなんか1つも見つかりません」と涙目になっていた子に私は、「いま見つからなくてもいいよ。2学期の終わりにでも見つけられるからね」と伝えていたんです。そして、宝物ファイルプログラムを続けました。そうしたら2学期になって5つ、7つ、9つと書けるようになりました。この時は自分のことのように嬉しかったですね。
もちろん、このように子どもたちが自分や仲間たちを好きになっていくという意味でもプログラムの意義は大きいんですけど、保護者の皆さんにとってみたら通知表だけでは分からない、我が子のよさが分かるんですね。
保護者会の個人懇談では、まず通知表についてお話をさせていただいた後、ファイルを開き、「この時、こんなに頑張ったんですよ」「とても発表がよかったんですよ」と言って一人ひとりを必ず褒めました。
どちらかというと、保護者の方のご意見は「うちの子はよいところが1つもありません」「せめて○○君くらい頑張ってくれたらいいのに」という否定的なものが多いんです。しかし、ファイルにじっくり目を通していくと、保護者でもご存じない我が子の素晴らしさに気づかれることがたくさんありましたね。

シバ・サンホーム社長

柴部 崇

しばべ・たかし

昭和38年大阪府生まれ。府立花園高校卒業後、奈良県の工務店で修業。60年父親の工務店に入り、平成7年父親の死後代表に就任。18年シバ・サンホームを設立。著書に『奈良で家を建てるなら』(エル書房)。