2025年9月号
特集
人生は挑戦なり
インタビュー②
  • 森山脳神経センター病院副病院長根本暁央

努力前進

〝神の手〟を持つ男・福島孝徳医師に学んだこと

困難を極める脳外科手術において、患者の負担を極限まで抑える「鍵穴手術」を編み出し、世界中で活躍した〝神の手を持つ男〟福島孝徳医師。生前、日本で衣鉢を継ぐ愛弟子を数多く育てたが、その筆頭に挙げられるのが森山脳神経センター病院(東京都)の根本暁央医師だ。〝神〟と仰がれる領域にまで達した師にいかに食らいつき、自らを高めてきたのか。

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    〝神の手〟は時間の使い方の達人

    ――本日は、朝からの外来を終えられてお疲れのところ、ありがとうございます。

    いえいえ。いま、僕はここ森山脳神経センター病院だけで、月曜と土曜の午前中に外来を受けつけています。水・木・金は隣の森山記念病院でずっと手術です。
    先週の外来では、一般の患者さん以外で、手術を求めてこられる方を60人はましたね。経過を見て薬をお出しする患者さんより、そうした手術の相談で遠くからお見えになる新患の方が多いんですよ。難しい病気をお持ちで、手術をするかどうか悩まれながら、この医者は信用できるのか、人となりを見極めに来る方もいます。

    ――皆さん、すがるような思いで来院されるのですね。

    そういう方に軽々しく「次また来てください」とは言えないですよ。だから朝9時に始めて、夕方6時までぶっ続けで診ることも多いです。ここに来て13年になりますが、昼ご飯を食べたことはないですね。
    といっても、全員に型通りの説明をしていたら時間が足りません。薬だけ必要な患者さんを、しょほうせんのためにずっと待たせるなんて時間を奪うだけです。どうするかというと、お呼びする順番は変えられないので、お通しする部屋を変えます。例えば、新患の方がレントゲンを撮っている間に別の部屋へ薬を処方しに入ります。

    ――患者さんに徹底して寄り添う。

    限られた時間で最大限の医療をする。これは僕の師匠、福島たかのり先生に教わったことです。
    福島先生は「すべては患者さんのために」の信念で、アメリカを中心に世界20か国を飛び回って活躍した脳外科医です。脳しゅようずいまくえん、顔面けいれんといった様々な病気を、がいに必要最小限の穴を開けて治す「鍵穴手術」を開発し、他の医師がさじを投げたような患者さんを救われていました。

    ――〝神の手〟を持つ男として、世界的に有名でしたね。

    常に手術の予定が詰まっている福島先生は、時間の使い方の達人でもありました。あらゆる患者さんに平等に接し、しかも一人ひとりの状態を最優先して、自分の時間をロスなく動かす。僕たち弟子はそれが習慣になっています。

    森山脳神経センター病院副病院長

    根本暁央

    ねもと・あきお

    医学博士。昭和41年千葉県生まれ。平成4年東邦大学医学部卒業。東邦大学附属大森病院脳神経外科研修医、助教授を経て、福島孝徳医師の導きにより17年米国ノースカロライナ頭蓋底手術センター研究員、デューク大学脳神経外科研究員。19年福島孝徳記念病院脳神経外科部長。24年森山記念病院脳神経外科頭蓋底外科部長、福島孝徳脳神経センター長。27年森山脳神経センター病院副病院長。