2026年4月号
特集
感謝にまさる
能力なし
対談
  • 茶道裏千家第十六代家元千 宗室
  • 臨済宗円覚寺派管長横田南嶺

これにん

先師に導かれていまがある

千利休居士を祖とする茶道家元の裏千家。「和敬清寂」の心を大切に、約500年にわたって代々その道統を守り継いできた。第十六代家元の千宗室氏は、「茶道とは人間にとって大切なものは何か、いかに生きるべきか、を学ぶ人倫の道でもある」と説く。氏はいかにして修行を積み、先師からの薫陶を受け、道を深めてこられたのか。懇意にされている臨済宗円覚寺派管長の横田南嶺氏と共に、人間学談義に花を咲かせた。茶と禅に通底する教えは私たちに多くの学びを与えてくれる。

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    茶道裏千家第十六代家元

    千 宗室

    せん・そうしつ

    昭和31年京都府生まれ。同志社大学卒業。臨済宗大徳寺管長・僧堂師家の中村祖順老師のもとで参禅得度、斎号「坐忘斎」を受く。祖順老師没後、妙心寺の盛永宗興老師のもとで参禅。平成14年12月裏千家家元継承。今日庵庵主として宗室を襲名。

    臨済宗円覚寺派管長

    横田南嶺

    よこた・なんれい

    昭和39年和歌山県新宮市生まれ。62年筑波大学卒業。在学中に出家得度し、卒業と同時に京都建仁寺僧堂で修行。平成3年円覚寺僧堂で修行。11年円覚寺僧堂師家。22年臨済宗円覚寺派管長に就任。29年12月花園大学総長に就任。著書に『禅の名僧に学ぶ生き方の知恵』『十牛図に学ぶ』『臨済録に学ぶ』『無門関に学ぶ』(いずれも致知出版社)など多数。

    つい数日前の新たな発見と感動

     きょうはなんれい老師に鎌倉から京都までお越しいただき、本当に恐縮しております。

    横田 ぼうさいお家元も稽古始めをひと通り終えられて、お疲れのところをありがとうございます。

     老師もおおぜっしん(坐禅修行)を終えられたばかりですね。

    横田 ちょうど大寒の1月20日から1週間勤めさせてもらいました。例年、最も寒い時期の摂心であります。

     摂心でのていしょう(講義)というと、『りんざいろく』や『へきがんろく』を取り上げる僧堂が多いですけれども、何でなさったのですか?

    横田 今回は『じゅうぎゅう』を読んでおりました。

     ああ、そうですか。『十牛図』をなさるところは珍しいですね。

    横田 そうかもしれません。この頃はうんすい(修行僧)に希望を聞いてやっているんです。

     あれは取っ掛かりは易しいけれども、最後は迷子になるような。老師には下調べなんて必要ないと思いますが、聞く者の心の準備が要りますね。空っぽにせな、入りませんから。

    横田 これまで何遍も話していて、今回も20回ほどかけてひと通り読んだんですけれども、いまでも新しい発見がありましてね。この字はこういう意味があったのかと。つい数日前の感動なんですよ。

     それはまたぜひともお聞かせいただいて。

    横田 このことはきょうのテーマにもつながるので、最後にお伝えしたいと思います。

    風のような家元 蛍のような管長

    横田 裏千家とえんがくとは、あさそうげん老師の頃からの深いご縁ですね。確か朝比奈老師は裏千家の東京道場に毎月ご提唱に行っておられたと伺っておりまして、その慣習で役が当たるんですよ。私はお茶のことを全然存じ上げませんが、管長就任と同時にたんこうかい鎌倉支部顧問になりました。
    お家元は私より8歳上で、私が管長に就任したのは平成22年でした。その8年前に、お家元は千宗室を襲名されているんです。ということは、この方は私が管長になったのと同じ46歳でお家元になられたんだと。

     左様でございます。

    横田 管長になった頃はもう嫌で嫌で(笑)、まず先代が元気なんですよ。人前では管長のふりをしなきゃいけないし、後で先代からは怒られる。なんでこんな目に遭わなきゃいけないのかなっていう、もんもんとした日々で体調を壊して入院をしたこともあります。
    そんな頃に、「あれ、ちょっと待てよ」と。裏千家のお家元は自分と似たような年回りで、あちらも大物の先代がお元気でおられると察しましてね(笑)。レベルは随分違いますけれども、共通点があるなと勝手に意識し始めました。
    それで出入りの建築会社の社長がごそうと親しく、お引き合わせくださいましてね。ありがたいことに鎌倉は小さな町にもかかわらず、ご宗家のお家元がこうとくいんの大仏茶会とつるがおか八幡宮のお茶会、年に2回も来てくださる。
    確か平成25年の大仏茶会の時でした。私はまだ苦悩に耐えている時代ですよ。ところが、初めて坐忘斎お家元にお目にかかると、ご本人を目の前にして恐縮ですけれども、そんな重荷を背負っている感じはないんですね。まるで風のようにさわやかに、ああいう重圧の中でも生きることができるのかと感動したんです。
    最初にお家元とご一緒したお茶席では、学生さんがお茶をててくれたのですが、学生さんはお家元の目の前ですからもうガチガチに緊張していた。その時、お家元は実に行き届いた応対で優しい言葉をかけておられましたね。それで心ひそかに敬意を表し、お慕い申し上げて、今日に至ります。

     あれは5月だったと思いますが、少し天気が崩れかけている時でした。老師とお目にかかることができたのはちょうど夕暮れで、ふと老師のお顔を見た際に「ああこの方、ほたるみたいな感じだな」と思いました。
    普通、老師というのは岩のような強いイメージを受けるんです。ところが、この方はちょっと違うな。ホワッと体が柔らかく、いろんなものを照らしてくれている。けれども、ご本人はそれについて全然気がついてもいない。まさに蛍の光のような、あわい心地よさを送ってくださると思ったのが最初の出逢いでした。

    横田 それは恐れ入ります。

     ひょっとしたら老師がさっきおっしゃったように、老師も私も同じ気持ちで探り合っていたところはあったかもしれないけれども、すぐにそんなことはなくなってしまいましたね。不思議でした。

    横田 本当に不思議なご縁でございまして、ありがたいとしか言いようがありません。