2026年1月号
特集
拓く進む
インタビュー①
  • フランス菓子16区オーナーシェフ三嶋隆夫

嘘や手抜きのない
本物の仕事を
命ある限り貫く

人気の焼き菓子ダックワーズの生みの親として知られるパティシエ・三嶋隆夫氏。三嶋氏が経営する福岡市のフランス菓子16区は、2026年に創業45周年を迎える。若き日、日本やフランスで厳しい修業に明け暮れ、81歳の現在もなおスタッフと共に妥協なき菓子の一道を歩み続ける三嶋氏に、今日までの半生を辿りつつ、仕事の流儀を伺った。

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    81歳のいまも毎朝7時半に出社

    ――三嶋さんが考案されたダックワーズはいまや国内外で大人気の焼き菓子ですが、御社は2026年に創業45周年の節目を迎えられるそうですね。

    オープンしたのは1981年10月24日で、気がついたら45年経とうとしているというのが実感ですね。創業期のことを考えると、よくここまで続いてきたなと感慨を深くしています。
    さすがに僕も81歳を迎え、最近急に足腰が弱ってきました。だから、会社に来たら必ずもも上げを100回、家では機械を使った足踏みを300回ほどやっているんです。腿が上がらんようになって転んだりしたら大変ですからね。

    ――現在も毎日出社されている。

    開店は10時ですが、出張などがない限り、毎朝7時半には来ます。着替えて菓子の味見をしながら、「これは、いいな」とか「この味は少し違うぞ」とか、いろいろな指示を出します。僕はいまでも小さく切った菓子を毎日15個くらい食べます。おそらく糖尿病になったのもそんな生活を何十年と続けてきたからなのでしょう。
    医師は「このままだと寿命を縮めますよ」と言うのですが、「僕はパティシエだから、それで死んだって悔いはありません」と。

    ――強い覚悟で仕事に打ち込まれていることが伝わってきます。

    僕は創業以来、うそのないきちんとした仕事をする、真心を込めて全力でやることを信条にしてきました。もうこの程度でいいだろうという手抜きは絶対にしない。毎朝必ず菓子の味をチェックするのもそのためなんです。
    また、スタッフやお客様に向き合う姿勢もまったく一緒で、朝スタッフが出勤してくると、僕は全員と握手をするんですよ。「きょうも頼むぞ」「体調は大丈夫か」と。店頭にもできるだけ出て行って、常連さんも一見いちげんさんも分け隔てなく頭を下げて挨拶する。つくり手がいい状態でないとおいしいお菓子はできませんし、お客様がまた来たいと思ってくださる店をつくりたい、との思いが強くあります。

    フランス菓子16区オーナーシェフ

    三嶋隆夫

    みしま・たかお

    昭和19年北海道生まれ。大学卒業後、帝国ホテルに入社し、菓子職人としての礎を築く。スイスのルツェルン、南仏ニース、フランスのパリと4年余にわたり菓子職人として修業を重ねる。パリの16区にある洋菓子店アクトゥールで日本人初のシェフに就任。55年帰国し、翌年福岡市でフランス菓子16区をオープンする。人気の焼き菓子・ダックワーズの考案者としても知られる。平成19年度「現代の名工」受賞、27年黄綬褒章受章。