2026年3月号
特集
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一人称
  • 藤里町社会福祉協議会会長菊池まゆみ

ひきこもりゼロへの
挑戦

いま、日本でひきこもり状態にある人の数は、生産年齢人口において約146万人、50人に1人に及ぶという。人口減少が急速に進む我が国にとり、早急に対応が求められる重要課題の一つと言えるだろう。こうした中、秋田県北部にある藤里町が、ひきこもりをゼロにした町として注目を集めている。活動を主導した菊池まゆみさんの取り組みと、活動に懸ける思いを通じて、我が国が直面する課題解決のヒントを探りたい。
【写真=2010年、藤里町に開設された就労支援施設「こみっと」の前で】

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    藤里町社会福祉協議会会長

    菊池まゆみ

    きくち・まゆみ

    昭和30年秋田県生まれ。大学進学を機に上京し、結婚。その後帰郷し、平成2年藤里町社会福祉協議会に入社。事務局長を経て、27年同協議会会長に就任。令和3年より秋田県社会福祉協議会副会長を兼務。全国社協会長表彰、日本地域福祉学会地域福祉優秀実践賞、エイボン女性年度賞など受賞歴多数。著書に『「藤里方式」が止まらない』(萌書房)がある。

    弱者救済ではなく活躍支援

    私が住む秋田県のふじさと町は、人口2,700人余りの小さな町です。この地方の町にいま、全国から見学や視察が相次いでいます。かつて町に113人もいたひきこもりをゼロにした「藤里方式」に、多くの方が関心を寄せてくださっているのです。

    ひきこもりといっても、事情は様々です。自分は困っていないから放っといてくれとおっしゃる方や、医療支援が必要な方がいる一方、親の介護などの諸事情で離職を余儀なくされ、復帰を果たそうとした時には就職先がなかなか見出せなくなるケースもあります。

    私が専業主婦だった頃、働いている女性が輝いて見え、自分だけが世の中から取り残されてしまったような気持ちにさいなまれたことがありました。その時の気持ちは、ひきこもりの人たちが抱える葛藤にいくらか通じるものがあるのかもしれません。

    10年間のひきこもり状態から復帰を果たした方がおっしゃいました。自分はいつでも働けるほうに行けると思っていた。でも、働けている人と自分との間の亀裂がどんどん広がって、どうにもならなくなったのだと。

    しかし、たとえいまはひきこもりでも、自分なりの方法、自分なりのタイミング、自分なりの力量の範囲内で再び社会に出て活躍する方法があるのではないか。頑張りたいけど一人ではどうしようもない方を応援したい。地元の社会福祉協議会(社協)でひきこもりの問題に取り組んできた私は、その一心で活動を続けてきました。

    では、藤里町はなぜひきこもりをゼロにできたのか。他の自治体の取り組みとどこが違うのか。視察に訪れてくださった方々に一番お伝えしたいのは、藤里方式の一番の特長は、弱者救済ではなく、「活躍支援」であることです。

    私が社協に就職した当初は、「一人の不幸も見逃さない運動」としてこの活動に取り組んでいました。けれども様々な現実に直面する中で、弱者救済という視点だけでは限界があることを実感。活躍支援という視点で、誰もがキャリアアップ、キャリアチェンジを目指せる場を追求するようになったのです。

    その間、町の人口は当初の約4,000人から約2,700人にまで激減しました。この厳しい現実に対応するには、根本から発想を変え、誰もが地域の担い手になれる仕組みが必要ではないか。支援する人、される人を隔てることなく、活躍の場がない人にどんどん外へ出てもらうべく、全世代対応型の活躍支援事業へと転換を図りました。

    現在は介護施設や農作業など、町内の人手が足りない現場に登録者を派遣する「こみっとバンク」、そこから登録対象を拡大した「プラチナバンク」を設けて、若者からシルバーまで全世代に参加を呼びかけ、約400人の方にご登録をいただいています。100歳の女性にご登録いただいた時、「私なんかにお役に立てることがあるの?」と、嬉しそうな表情を浮かべていらっしゃったのが印象的でした。