2025年11月号
特集
名を成すは毎に窮苦の日にあり
インタビュー③
  • 「茶懐石 秋吉」オーナーシェフ秋吉雄一朗

パリで和の心を
伝承する

フランス初の茶懐石料理店として開業し、約1年でパリミシュラン1ツ星を獲得した「茶懐石 秋吉」。オーナーシェフを務める秋吉雄一朗氏は10代の頃から老舗料亭「瓢亭」で修業を積み、異国の地で日本料理の伝承に心血を注いでいる。氏を突き動かすものは一体何か――。山坂を乗り越えてきた歩みと日本料理に懸ける思いを伺った。

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    2年連続パリミシュラン1ツ星を獲得

    ――2年連続パリミシュラン1ツ星の獲得、おめでとうございます。

    ありがとうございます。「ちゃかいせき 秋吉」はフランス初の茶懐石料理店として2023年にオープンした16席の小さな店ですが、いまでは1か月先まで予約が埋まるようになりました。
    和食が無形文化遺産に登録され、ヨーロッパでも日本食に対する関心が高まっているとはいえ、まだまだ懐石料理は知られていないのが現状です。それでも、日本の素晴らしさを伝えたいという一心で挑戦を重ねてきた僕にとって、ミシュランに評価されたことは大変嬉しく、光栄に思っています。

    ――現地の人々をきつける魅力を教えていただけますか。

    大きな特徴は、和の心を感じる空間です。料理がおいしいだけではお店の雰囲気を変えることは難しい半面、空間で料理の感じ方を変えることはできる。だからこそ、空間づくりには徹底的にこだわりました。
    パリの街並みで異彩を放つ数寄屋すきや造りの木造建築は、釘を一本も使っていません。佐賀の職人さんに依頼し、寸法を測って日本で組み上げた後、一度パーツをばらして船で運び、パリで組み立て直してもらいました。さらに掛け軸や和紙のライティング、神棚のオブジェなどをそろえる。細部まで日本の文化を散りばめることで、引き戸を開けた瞬間、まるで日本に飛び越えてきたかのような感覚を味わうことができるんです。

    ――和の心を伝えるために、創意工夫を重ねている。

    料理に関しても、フランスの食材はもちろん、専門の輸入業者から取り寄せた日本の食材を使用し、むこうづけから煮物、焼物、炊き合わせ、しいざかな、箸洗い、締めの和菓子と薄茶のまえまで、本格的な茶懐石料理をたんのうできます。フランス人の好みに合わせすぎず、季節ごとの素材本来の味を生かした味つけを心懸けてきました。
    オープン当初こそ「味が薄い」とよく言われましたけど、その声も最近はめっきり減ってきましたね。茶懐石料理の繊細な味をキャッチしてくれる現地の方々が増えてきていることを肌で感じます。
    日本の素晴らしいものを間違いなく出し続けること。それこそ自分が学んできた日本料理への恩返しであり、日本料理への貢献になると考えています。

    「茶懐石 秋吉」オーナーシェフ

    秋吉雄一朗

    あきよし・ゆういちろう

    昭和59年福岡県生まれ。平成15年高校卒業後、瓢亭にて10年間修業。25年在パリOECD(経済協力開発機構)大使公邸料理長に就任。29年外務大臣表彰受章。帰国後、令和3年JR博多駅ホームにラーメン店「明鏡志水」オープン。5年パリに「茶懐石 秋吉」を開業。6年パリミシュラン一ツ星を獲得。以来2年連続で一ツ星に選出。