父は中学校の校長をしていた。自分が負けず嫌いだったから、娘に対しても小さい時から「偉くなれ」と言って育ててきた。大きくなると、さらにその上に、「人よりも偉くなれ」と育てた。
小学校から高校まで、娘は順調に伸びていった。だが、東京の大学に進むとそうはいかなくなった。いくら努力しても自分より優れた人が数多いる。娘は絶望し、電車に投身自殺をした。
「両親の期待にそうことができなくなりました。人生を逃避することは卑怯ですが、いまの私にはこれよりほかに道はありません」
残された手紙にはそうあり、続けてこう書かれていた。
「お母さんほんとうにお世話さまでした。いま私はお母さんに一目会いたい。会ってお母さんの胸に飛びつきたい。お母さんさようなら」