2025年2月号
特集
2050年の日本を考える
各界の識者に聞く②
  • 京都大学大学院教授藤井 聡

国土強靱化で
日本は再び輝く

長期にわたり低迷を続ける日本。しかしその先には、さらに大きな危機が待ち受けているという藤井 聡氏。再生を阻むもの、そして危機を打開する道とは──。

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力の衰えた国がどれほど悲惨か

日本の衰退が、様々な問題が連動する形で深刻化しています。

1997年に成長の止まった日本経済は、以来再び上昇に転じることもなく、失われた30年といわれる長期停滞を続けています。これに伴い国勢も衰え、世界2位であったGDPは、中国、さらにはドイツにも抜かれて4位に後退。かつてはG7の中でもトップであった一人当たりGDPもいまや最下位、世界ランキングでも37位に沈んでいます。日本の経済的プレゼンス(存在感)はどんどん低下し、この状況が続けば10年後、20年後には東アジアの一貧国になってしまう可能性が濃厚です。

これに連動する形で、軍事、安全保障における危機も急速に高まっています。

20世紀の後半までは、盤石の日米安保体制によって日本は安全保障上の脅威にさらされることはほとんどありませんでした。しかし、近年はアメリカの相対的地位の低下により、軍事大国のロシア、台頭する中国、そして核装備を進める北朝鮮の脅威に晒され、いつ何時軍事的危機に直面しないとも限らない状況になっています。

こうした日本のプレゼンス低下は、他国の干渉を拒否する外交力の低下ももたらしています。

日本の国土、不動産、企業など、国力を支える様々な重要資産は次々と海外マネーに買収されています。LGBT法案や移民政策など、国民の合意を十分に得ていない政策が、他国の意向に従う形でどんどん推進されています。TPPをはじめとする自由貿易協定も、必ずしも国益にかなうものではなく、そのあおりで日本の食料自給率はカロリーベースで38%に低迷。国内農家にそのしわ寄せが及ぶ一方で、海外の農家を豊かにするという理不尽な結果を招いています。この構図はエネルギー業界においても見受けられます。

近年は、デジタルの世界でも海外への依存度が高まっています。検索サイト、SNS、パソコン機器など、いまや海外発のサービスなしに我われの生活は成り立たないと言っても過言ではなく、それらに投じたお金の大半は、諸外国を潤しているのが現実です。

力の衰えた国がどれほどみじめか。消費の低迷する日本は訪日客への依存を高めていますが、この先外資による企業買収まで増えていけば、会社の上司が外国人に代わり、日本人は植民地の現地人のように低賃金でこき使われるようになることも十分あり得るでしょう。

こうした状況下で国民の貧困化はどんどん進み、それが教育の荒廃や倫理観の低下をももたらしつつあります。我が国が長い歴史を通じて培ってきた優れた精神性が損なわれ、社会秩序の混乱と治安の悪化で国の土台が揺らいでいけば、最終的には日本を日本たらしめている皇室制度を維持していくことすら困難になるでしょう。

京都大学大学院教授

藤井 聡

ふじい・さとし

昭和43年奈良県生まれ。京都大学工学部卒業、同大学院修了後、同大学助教授、イエテボリ大学心理学科客員研究員、東京工業大学大学院教授などを経て、平成21年より京都大学大学院工学研究科教授。24年から30年まで安倍内閣官房参与。著書に『日本滅亡論』(経営科学出版)など多数。