2019年6月号
特集
看脚下
特別講話
  • ジャーナリスト櫻井よしこ
日本が進むべき道

新たな活路をどう拓くか

令和の時代が幕を開けた。いま、日本人が認識を新たにすべきことがある。有史以来、様々な危機に直面した日本を意識あるリーダーたちが救ってきた足跡である。世界情勢が混迷を極める中、日本が活路を拓くには、先人のこれからの勇気ある決断に学ぶことだとジャーナリストの櫻井よしこ氏は語る。3月に開催された弊社主催一日セミナーにおける櫻井氏の講演内容は、新元号元年のいま、日本を看脚下する一つの立脚点を示したものといえる。

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アメリカとの横軸だけを重要視してきた日本

きょうは、日本の長い歴史を振り返ることで、地球社会で日本人が今後、どのような基軸を持って歩んでいけばいいのかを一緒に考えてみたいと思っています。

今年は戦後74年、いまの憲法が施行されて既に72年になるわけですが、この間、日本人にはお決まりのような思考パターンがありました。

ご存じのように、日本は敗戦国としてアメリカに7年近く占領され、占領政策の下で自分の国を自らの力で守ることは考えてはならないと教え込まれました。その考えを反映しているのが現憲法であり、現憲法に基づく自衛隊のあり方です。

当時、アメリカは日本を農業国に留めようとしていました。工業の基盤は戦争でことごとく破壊されてしまった日本は、当初はそのような状況に甘んじざるを得ませんでした。ところが、日本は経済活動だけやっておけばいい、外交も安全保障も自分たちについてくればいいという占領期からのアメリカの考えはその後も長く深く日本人の心に浸透したまま、今日に至っているのです。

少し世界地図を思い浮かべてみてください。日本の上には地球最大のユーラシア大陸があり、北にロシア、南に中国、西南にインド、西にはヨーロッパの国々が位置しています。大西洋を挟んでアメリカ大陸があり、太平洋のはるか西方に日本があります。このように地球上に多くの国がひしめき合う中で、日本は自国とアメリカを結ぶ横軸1本、2国間の関係だけを重視して歩んできたわけです。

約70年間、日本独自の外交が事実上行われなかったに等しい状態が続いたことで、外務省もまた国益そっちのけで省益ばかり追い求める官僚体制になってしまいました。日本とアメリカを結ぶ横軸は日本国民にとっての座標軸となり、「アメリカとの関係さえうまくいっていれば、すべて解決できる」「いざとなったらアメリカが守ってくれる」という発想から抜け出せなくなってしまったのです。

一昨年の北朝鮮危機の時もそうです。北朝鮮がミサイルを撃つと脅せば「アメリカはミサイル防衛網で守ってくれるのだろうか」「パトリオットミサイルはどうなのか」という議論が起きました。しかし、国家というものは本来、国民の命と領土、領海は自力で守るのが当然です。ミサイル危機なのにアメリカは何もしてくれないという議論が起きること自体がおかしいのです。これらも皆、突き詰めれば日本とアメリカを結ぶ横軸の発想に由来しているといえます。

しかし、日本のそんな状態を横目に、世界情勢は大きく変わっています。トランプ大統領の外交一つを取り上げても、歴代の大統領とはまったく違います。就任から2年余りが過ぎ、私たちはようやくトランプ氏が考えていることを、かなり予測できるようになりました。

結論から申し上げれば、トランプ氏の考えはアメリカファースト、つまりアメリカの国益につながればいいけれども、そうでなければだめだという価値観です。日本など同盟国との関係もNATO(北大西洋条約機構)との関係も、アメリカの国益にかなってこそ意味があり、アメリカは他国のために軽々けいけいに軍事行動はとらない、必要ならば当事国でやれ、というのがトランプ氏の考えです。

もっとも、この考えはトランプ氏だけのものではありません。オバマ大統領の時も、その考えははっきり打ち出されていました。オバマ氏は2011年12月、民主化に向けていまだに土台が固まっていないイラクからアメリカ軍を撤退させるという中東政策の大失態を犯します。その結果、ISIS(イスラム国)などのテロリスト戦力が拡大しました。2013年8月、シリアのアサド政権は化学兵器を使って1,600人もの国民を殺戮さつりくしました。

この時、世界はアメリカがアサド大統領を退陣させて、もっと民主的な政権を樹立させると期待していました。ところが、オバマ氏は軍事介入を拒み、「アメリカは世界の警察官ではない」と発言しました。これを聞いて喜んだのはロシアと中国、テロリストです。事実、ロシアは半年後にクリミア半島を奪い、中国は南シナ海で埋め立て作業を加速し、軍事拠点化を進めたのです。

オバマ氏の後、大統領に就任したトランプ氏はアメリカファーストを明確に打ち出しました。2人は見かけは全く違いますが、主張していることはほぼ同じです。

ジャーナリスト

櫻井よしこ

さくらい・よしこ

ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業後、「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局勤務。日本テレビニュースキャスター等を経て、現在はフリージャーナリスト。平成19年「国家基本問題研究所」を設立し、理事長に就任。23年日本再生に向けた精力的な言論活動が評価され、第26回正論大賞受賞。24年インターネット配信の「言論テレビ」創設、若い世代への情報発信に取り組む。近著に『韓国壊乱 文在寅政権に何が起きているのか 』(PHP新書)など多数。