2019年6月号
特集
看脚下
対談
  • (左)大阪桐蔭高等学校硬式野球部監督西谷浩一
  • (右)帝京大学ラグビー部監督岩出雅之

勝敗を決するもの

毎年選手が入れ替わる中で、常に現状の戦力から出発し、選手を育てチームを日本一へと導く。その歩みはまさしく看脚下といえるだろう。片やラグビー全国大学選手権で前人未到の9連覇を果たした帝京大学ラグビー部。片や史上初となる2度目の甲子園春夏連覇を成し遂げた大阪桐蔭高等学校硬式野球部。全国屈指の強豪校が鎬を削る世界において、ひと際輝かしい実績を積み重ねてきた岩出雅之氏と西谷浩一氏が語り合う指導論の極意とは――。

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9連覇の鍵はチームカルチャー

西谷 昨年私たち大阪桐蔭とういん高校野球部が甲子園春夏連覇したことで、今回の企画にお声掛けいただいたと思いますが、9年も連続で帝京大学ラグビー部を日本一に導かれた岩出監督の相手が私でいいのかなという思いがありまして。

岩出 またまた(笑)。

西谷 いや、もう本当に。いつか帝京ラグビー部のように何連覇もできるチームをつくりたい気持ちはありますけど、私の場合は2年連続がやっとですから。
野球界の方とはお話しすることは当然ながら多くあっても、こういう機会はないので、いろいろと学ばせていただきたいと思って、まいりました。

岩出 西谷監督とは2~3年前にある会でご挨拶して以来、何度かお会いしていますが、いつも冗談話ばかりだったのできょうは少し緊張します(笑)。

西谷 きちんとした形でお話しするのは初めてですよね(笑)。
全国大学選手権9連覇、関東大学対抗戦8連覇というのはどちらも前人未到の記録だとお聞きしていますけど、勝ち続けてきた理由は何だとお考えですか?

岩出 1回だけ優勝させるのは、その年のメンバーに恵まれていれば可能だと思うんですけど、それでは連覇は難しい。

西谷 毎年選手が入れ替わりますからね。

岩出 ええ。ですから、大切なのはいかに「チームカルチャー」を築いて、選手層を厚くしていくかだと思います。

西谷 チームの文化、ですか。

岩出 選手たちが自分を信頼するといいますか、自信を積み重ねていくのはそう簡単なことではありません。やっぱり自信や心の余裕がない状態では、どれだけフィジカルやスキルを持っていても試合で力を発揮できないんですね。
毎年毎年、先輩たちからたくさんのサポートを受けつつ、自信のもとになる心の余裕、体の余裕、プレーの余裕を1~2年生は学ぶ。先輩から後輩へ経験値や考え方を伝承し、共有する。そういう文化を心掛けてつくってきました。

ラグビーの伝統校といえば早慶明そうけいめいで、我われはその伝統校に追いつけ、追い越せと思ってやってきたんです。練習にしろ試合にしろ、一つひとつのプロセスで全力を尽くすことで、徐々に伝統校を相手に互角の勝負に持ち込めるようになり、その壁を越えて勝利を得ることができるようになりました。
だから、僕は何連覇という数字にはあまりこだわってなくて、一つひとつの試合で、自分たちがやってきたことの成果を実感できるほうが大切だと思っています。

西谷 目の前の一つひとつが勝負だと。

岩出 ちょっと違う角度で表現すると、「勝ちたいな」と思っていた時は勝てなくて、「勝たせたいな」と思っていると少しずつ勝てるようになって、「幸せにしてやりたいな」と思うようになって、一気に優勝が続いたという感じですね。
自分が勝ちたいから選手たちを勝たせたい。そして目の前の勝利だけじゃなくて、彼らを育ててあげたい。こう思うようになったら、勝利が来るようになった。

西谷 私も勝ちたい、勝ちたいと思っている時には勝てませんでしたが、どうしたらこの子たちを甲子園に連れて行ってやれるかって考えるようになってから、少しずつ勝てるようになりました。

岩出 おけの中の水を自分のほうに寄せようとすると向こうへ逃げてしまうけれども、相手にあげようと押しやれば逆に自分のほうへと返ってくるのと同じで、自分のためではなくて相手のために一所懸命やると、物事はうまく運んでいくのではないかと思います。

帝京大学ラグビー部監督

岩出雅之

いわで・まさゆき

昭和33年和歌山県生まれ。和歌山県立新宮高等学校を経て、55年日本体育大学体育学部卒業。滋賀県の教育委員会、中学校、高校勤務を経て、平成元年滋賀県立八幡工業高等学校へ赴任。8年帝京大学ラグビー部監督に就任。22年創部40周年にして初の全国大学選手権優勝。以来、同選手権では優勝を続け、史上初の9連覇を果たした(30年まで)。著書に『常勝集団のプリンシプル』(日経BP社)など。

成果を上げる3つのプロセス

西谷 10連覇がかかった今年1月の全国大学選手権では、惜しくも準決勝で敗退してしまいましたね。

岩出 全国大会で9年勝たせていただいて、逆に今年は敗戦で終わりましたけど、ここでもう一度、いい準備をしなきゃいけないという教訓を学んだと思います。これまで勝利からもたくさんのことを学んできましたが、敗戦でしか学べない部分、不足している部分を気づかせていただきました。
僕自身、そこをしっかり見つめましたし、次の戦いに向けて課題をどうクリアしていくかを選手たちと考え、そのための活動を一つひとつ始めているところです。

もちろん選手たちが敗戦を大切な経験だと思えるには時間がかかるでしょう。そういう意味で、敗戦直後の選手たち、特に卒業する4年生には、「急がずにゆっくりと自分を調ととのえながら、振り返ってみたらどうだ」という話をしました。中には無理をして自分の気持ちを押し殺している選手もいましたので、「9年間多くのチームの涙を見てきたんだから、きょうは思いっきり泣いていい。そして次は笑えるように、この悔しさを大切にして前を向いて挑戦してほしい」と。
だから、いまチームの雰囲気は意外に明るいんです。敗戦のショックとかネガティブなものはなく、新しいエネルギーが湧き出ているような感じがします。

西谷 特にどんなことに力を注がれていますか?

岩出 先ほどのチームカルチャーをもう一度しっかり育てていくことです。9年間皆で醸成じょうせいしてきたつもりだったのですが、世の中も変わり、その影響を受けている学生たちも変わっていく中で、どこを変えてどこを変えないかということを押さえながら、チーム全体がさらに伸びるようにする。
チームカルチャーを土や根にたとえて、皆で体を使い、汗をかいて、いい栄養を含んだ土を耕し、それを吸収できる立派な根を一人ひとりが持とうと。

細かなことを挙げればたくさんあるんですけど、我われコーチングスタッフが学生たちに教え過ぎていないか。彼ら自身が悩み苦しみながら答えを見つけていくアプローチができているか。あるいは学生たちも、チームの中で先輩が見せるべき姿や後輩への関わり方ができているか。無理な課題に挑戦して挫折ざせつするのではなく、最適なレベルの課題に挑戦し、ちゃんとやり切れているか。そういったことをお互いに向き合いながら、もう一度見直しています。ですから、3月は練習時間を大幅にディスカッションに割きました。

西谷 技術よりも考え方の部分を重点的に。

岩出 はい。成果に結びつくアクション、行動を生むためにはマインドセット、正しい考え方を身につけることが必要です。ただそれだけでは不十分で、やる気のもとになるエネルギーも高めなければなりません。逆に、エネルギーやマインドセットを抜きにいきなりアクションを求めてもダメ。
この「エネルギー、マインドセット、アクション」という3段階を我われコーチングスタッフも選手たちも理解して、急がずに余裕を持ちながら取り組んでいます。

西谷 今回の敗戦を機に帝京ラグビー部がどれだけ強くなるのか、一ファンとしてものすごく期待が膨らみました。

大阪桐蔭高等学校硬式野球部監督

西谷浩一

にしたに・こういち

昭和44年兵庫県生まれ。報徳学園高等学校、関西大学で野球をプレー。平成5年同大学経済学部卒業後、大阪桐蔭高等学校に赴任し、硬式野球部のコーチとなる。10年11月から監督に就任。13年にコーチに戻ったが、14年秋に監督復帰。これまで甲子園優勝7回(春3、夏4)を経験し、監督として歴代最多。中村剛也、中田 翔、藤浪晋太郎、根尾 昂、藤原恭大ら、幾多の逸材をプロに輩出している。