2017年4月号
特集
繁栄の法則
対談
  • アシックス社長CEO尾山 基
  • J.フロントリテイリング社長山本良一

組織を繁栄に導く
リーダーのあり方

時代は未曾有の大変化を迎えている。これまでの常識を覆す変革が求められる中で、リーダーはいかにして組織を導いてゆけばよいのだろうか。世界的なスポーツ用品ブランドを率いる尾山基氏と新時代の百貨店経営に果敢に挑む山本良一氏に、各々の足跡を交えながら、組織を繁栄に導くリーダーのあり方を語り合っていただいた。

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変化を見据えて先手を打つ

尾山 山本さんに初めてお目にかかったのは、私がアシックスの社長になってからでしたが、実は大丸さんとは若い頃からご縁がありましてね。学生時代に心斎橋のお店で2年ほどアルバイトをさせていただいていたんです。

山本 それは初めて伺いました。そんなご縁があったんですね。

尾山 2回生の時に食料品売り場で働いた後、3回生になって外商の住友グループ担当に回されたんですが、「何で学生がそこまでやらなあかんねん!」と思うような、大事な仕事も結構任されましてね(笑)。うちに来いっていうお話もいただいていたんですが、あいにく商社や証券会社を志望していたので、入社には至りませんでした。
それでも、その後アシックスに移ったことで御社とまたご縁を結ぶことができ、とても嬉しく思います。

山本 初めてお目にかかった時には、尾山さんもバスケットボールをおやりになっていたことが分かって、随分話も弾みましたね。アシックスさんには、私と同じ明治大学OBの方も結構いらっしゃいますし、私が大学のバスケットボール部に入った時のコーチが、当時のオニツカタイガーの社員の方でしてね。モニターとしてオニツカタイガーの靴を履いてレポートを提出していましたから、御社にはとても親近感があるんです。
最近の経営状況はいかがですか。

尾山 いまは海外部門の収益が80%近くを占めています。低迷の続いていた国内部門を無事立て直せたのも、海外部門で収益をカバーできていたからなんです。私が初めてヨーロッパに赴任した時は、200億円もの大赤字を出していましたけれども、そこから海外の収益で業績を牽引できる形に転換できたことは大きかったですね。
ところが今度は、為替の変動や有力な取引先の倒産なども重なって、海外のほうに不安定な要素が出てきましたから、人の強化も含めた経営体制の見直しに取り組んでいるところです。

山本 御社は早い時期から海外展開をしてこられましたね。

尾山 そうですね。私自身も海外は長いんですが、アシックスでの海外駐在は80年代の後半にアメリカに赴任したのが最初でした。その時も高額の赤字を出した後でしてね。考えてみたら、いつも悪い所ばかり担当させられてきましたよ(笑)。

山本 しかし尾山さんのご尽力もあって、いまでは世界シェアでも上位につけていらっしゃるようですね。

尾山 最近伸びてきたアメリカのアンダーアーマーやドイツのプーマなどと激しい3位争いを展開しているところです。けれども世界1位のナイキの年商が約3兆円で、2位のアディダスも約2兆円であるのに対して、当社の年商は約4,000億円ですから、仮に3位になっても安心も満足もできません。
ご承知のとおり、アメリカの小売り業界などを見ても、いまは激震が走っておりますしね。去年(2016年)は全米の売り上げの19%がモバイルを利用した買い物によるものとも言われています。今年(2017年)20%を超えるのは確実で、それがいろんな実店舗の倒産に繋がっています。
私どもの業界でも、この数年のトレンドで急速にカジュアルなものが好まれるようになってきていますし、そうした変化を見据えて常に先手を打っていかなければなりません。現場の営業マンは、きょう、明日の商売が1年後も続いているだろうという発想に陥りがちですから、現場の話だけを聞いていると遅れてしまいます。

アシックス社長CEO

尾山 基

おやま・もとい

昭和26年石川県生まれ。49年大阪市立大学商学部卒業。日商岩井(現・双日)に入社。57年アシックスに入社。マーケティング統括部長、アシックスヨーロッパ社長、アシックス本社取締役、常務などを経て、平成20年社長に就任。23年社長CEO。同年、世界スポーツ用品工業連盟第13代会長に就任後、現在は同副会長。

海外からも評価される経営体制を目指して

尾山 御社もこの厳しい経営環境の中で増収増益を続けていらっしゃるようですが、いまはどんなことに特に力を入れていらっしゃいますか。

山本 経営のあり方を見直すコーポレートガバナンス(企業統治)改革です。ご承知のように、これまでの日本企業のやり方では世界の投資家からは評価されなくなります。
そこで、当社は一昨年(2015年)の春より専任組織をつくり推進体制を強化しています。まず、第三者機関に取締役会を評価してもらったんですが、散々な結果でした。中長期計画に沿った骨太の議論が少ない。議案説明が8割に対して論議が僅か2割。その2割のうちの100%を社長が喋っていると(笑)。早速ガバナンス委員会をつくって、ガバナンス改革を進めているんです。
同時に、社内の執行能力を上げていくために、去年の7月に経営人材評価も導入しました。私も含めて、各々の取締役と執行役員が経営者としてどのレベルにあるかというのを、第三者に評価してもらうんです。私の生い立ちから、性格、能力、やってきたこと、リーダーシップとか、全部あからさまになるんですけれども、それを社外役員にちゃんと提示し、当社がこういう人材によって経営されていて、後を継ぐ経営者をどう育てているかということを説明する。そうして経営の透明性、公正性を高めていくことによって、株主の皆さんが安心して投資していただける会社にしていくことに、いま一番注力しているんです。

尾山 当社の株主も45%は外国人ですし、やはり上場している限りは、株主の皆さんから十分な理解を得ることは非常に重要です。ガバナンスがしっかりしていないために、社長の暴走を止められなくてダメになってしまう会社もたくさんありますしね。
取締役のレベルアップを図ることは重要なんですが、これだけ社会の変化が激しいと、経営者としての訓練を施していないプロパー社員(生え抜き社員)をいきなり経営陣に加えていくのはハッキリ言って難しい。それで7、8年前から外部の教育機関と提携して英才教育に取り組むとともに、外部から有能な人をどんどん採用しています。育つのを待つ余裕もないほどの激変期ですからね。

山本 当社の海外投資家の割合はまだ22%しかありませんけど、それでも海外の投資家から見て分かりやすい会社にならないと、高く評価してもらえないんですね。海外で投資家向けのミーティングを開くと、いくら真面目に一所懸命働いても、ガバナンスがキチッと整っていなければ信頼されないのを痛感させられます。
これから海外投資家が増えていくと、ますますその傾向が強くなっていきますし、これはトップが真剣に取り組まなければ進まないことですから、いまの私の一番の関心事になっているんです。

J.フロントリテイリング社長

山本良一

やまもと・りょういち

昭和26年神奈川県生まれ。48年明治大学商学部卒業。大丸に入社。大阪・梅田店営業企画部長、百貨店業務本部営業改革推進室部長などを経て、平成15年社長に就任。19年大丸と松坂屋の経営統合に伴い設立された持ち株会社のJ.フロントリテイリング取締役。22年大丸松坂屋百貨店社長。25年J.フロントリテイリング社長。