2016年4月号
特集
夷険一節
対談
  • 鳥取城北高等学校校長、相撲部総監督石浦 外喜義
  • 兵庫県立飾磨工業高等学校主幹教諭、柔道部監督三輪 光

一節を貫くところに
強い信頼が生まれる

鳥取城北高等学校相撲部を全国屈指の強豪校に育て上げた相撲部総監督・石浦外喜義氏。片や兵庫県立飾磨工業高等学校柔道部を全国高等学校定時制通信制体育大会・男子柔道で前人未踏の8連覇へと導いた名将・三輪 光氏。その歩みは子供たちと真剣に向き合う中で築き上げた、強い信頼関係に寄るものだった。子供たちになびくことなく一節を貫いてこられた指導者としての歩みを、ともに語り合っていただいた。

この記事は約24分でお読みいただけます

鳥取城北高校相撲部その強さの秘訣

三輪 鳥取県の鳥取城北高等学校相撲部といえば、高校総体や国体などで優勝者を多数輩出していますし、角界にも随分教え子を送り出していますよね。

石浦 これまで角界には17人の力士を送り出してきました。現役には10人いて、幕内ではモンゴル出身の照ノ富士と逸ノ城の2人、十両は貴ノ岩と石浦がいます。
もっとも、いまでこそ注目していただいていますが、鳥取城北高校の相撲部を強くしたいから来てくれないか、とお声掛けいただいた昭和61年当時は、本当にゼロからのスタートで最初は土俵すらありませんでした。部員は全員1年生で、しかも4人だけ。
それでもすぐに大会に出たところ、5人で戦う団体戦で2対2まで持ち込めたのですが、あと1人がいないので負けました。翌年は部員も増えたので、前年の悔しさをバネに中国チャンピオンとなり、3年目でインターハイに出場すると何と3番になったんです。

三輪 おーっ、それはすごい。

石浦 そうなると、やはり一番になりたいじゃないですか。だからすごい稽古をするようになるんですけど、そこからが大変でした。
当時うちの相撲部は知名度が低くて、生徒を募集してもいい選手が全然採れなかったんですよ。だから中学時代に勝てなくても一所懸命やっている子を見つけて育ててきたんですが、どうしても大事なところで勝てない悔しさがずっとありました。

三輪 それでモンゴルに目をつけられたわけですか。

石浦 鳥取県はモンゴルの中央県というところと姉妹都市で交流があって、お世話になっていた人が交流会の会長をしていたんです。当時角界にはモンゴル出身の朝青龍が出てきた頃で、会長さんに「興味があるか」って聞かれたものだから現地に行ってみようと。
それでモンゴル相撲を初めて見たんですけど、大会には100人が参加していて、試合は総当たり戦なんですよ。つまり一人が朝から晩までやって99人全員と対戦すると。

三輪 すごいな、それは。モンゴル人力士はタフなはずですよ。

石浦 翌日には勝ち残った8人がまたやるんですけど、その中にいいなと思う子がいましてね。
そこからですよ、モンゴルとの出合いは。いまも18人いる部員のうち3人はモンゴル人です。

三輪 しかし、日本語から教えていくわけですから大変ですね。

石浦 うちはね、厳しいんですよ。日本語を覚えるのが遅かったら、「モンゴルに帰れ」と言うんです。日本語を覚えないと相撲も強くなれないから帰れと言われる。これが一番効くんです。
しかし後ほど触れると思いますが、モンゴルの子供たちに教えられることはいっぱいあります。だから日本人とモンゴル人とが切磋琢磨する中で、部全体が盛り上がってきたというのはありますね。

鳥取城北高等学校校長、相撲部総監督

石浦 外喜義

いしうら・ときよし

昭和36年石川県生まれ。金沢高等学校卒業後、日本大学へ進学。59年鳥取県の国体相撲競技強化のため、中学校教員として招かれる。61年鳥取城北高等学校に保健体育教師として勤務し、相撲部監督になる。平成27年同校校長に就任。

男子柔道8連覇への道のり

石浦 三輪先生のところは、全国高等学校定時制通信制体育大会・男子柔道で8連覇中だそうですね。3年ごとに生徒も入れ替わっていくわけだから、その中で8連覇というのはなかなか考えられません。すごいことですよ。

三輪 本当は去年(2015年)の大会で、負けたと思ったんです。相手は横浜修悠館高等学校というところで、そこはうちが優勝するようになるまで4四連覇していました。
向こうは決勝戦までオール一本勝ちで、ズドーンと勝ち上がってきたのに比べて、うちはもたもたしていたんですよ。決勝戦の前には、いままでやってきたことを精いっぱいやろう、やるしかないと送り出しまして、もう本当にキワキワで勝ったんです。その時は嬉しいというよりもホッとしました。

石浦 飾磨工業高校は以前から柔道が盛んだったのですか。

三輪 もともと顧問の先生が別にいたのですが、平成18年に縁あって私が柔道部の監督を引き受けたという経緯があって、当時の部員はたった3人でした。しかもそいつらはろくに練習にも来ないんですよ。だから時に力ずくで、時にお好み焼きで釣ったりとかしながらまずは道場に足を運ばせるところから始まりました。
それまで僕は主に全日制で教えてきて、それなりに選手も育てて結果を残してきたんですが、定時制のレベルがどれくらいなのかが最初は全然分かりません。とりあえず大会に出てみたところ、前年に全国大会に出場した学校に勝ってしまったんですよ。しかも1年生のメンバーだけで。

石浦 それはすごいな。

三輪 その時に僕の中では、定時制は大したことないじゃないかと思ったんです。ところが全国大会に行くと、全日制の試合に出てもインターハイ上位に食い込めるくらいの子が何人もいて、それが横浜修悠館高校の生徒たちだったんです。それを見てこれは性根入れないといかんわと思いましてね。
2年目には生徒も増えてきたので、それなりに行けるんじゃないかと思って全国大会に臨みましたが、準決勝でまた横浜修悠館高校にぱたぱたっとやられちゃったんです。でも、その時にパッと子供たちのほうを見たら泣いているんですよ。「どうしたんだ」って聞いたら、「悔しいです」と口々に言うんです。これはいけるかも分からないなと思って、よし次の日からは毎朝7時に朝練をやろうと決めました。
定時制だからアルバイトなどでその時間に来られないやつは、放課後の練習に1時間でもいいから顔を出せという具合に必ず毎日柔道着を着て、とにかく継続して頑張っていこうと。ちょうどその頃に全日制でインターハイを狙うようなやつも私を慕って練習に加わってくれるようになったので、その相乗効果で全体のレベルがぐっと上がって、3年目に全国優勝して以来ずっと勝ち続けているというわけです。

兵庫県立飾磨工業高等学校主幹教諭、柔道部監督

三輪 光

みわ・ひかり

昭和39年兵庫県生まれ。国際武道大学卒業後、兵庫県立相生産業高等学校、兵庫県立明石南高等学校を経て、兵庫県立飾磨工業高等学校に赴任。全国高等学校定時制通信制体育大会・男子柔道で現在8連覇中。著書に『破天荒』(竹書房)『チンピラちゃうねん、教師やねん。』(幻冬舎)がある。