2022年5月号
特集
挑戦と創造
インタビュー②
  • ONE・GLOCAL社長鎌田由美子

人生はいくつになっても
新しいことの連続

いまや常識となった駅構内での商業施設の運営。このエキナカビジネスを30代の若さで立ち上げたのが鎌田由美子さんである。挑戦と創造を重ね、現在は地域の活性化に情熱を注ぐ女性事業家に、自身を突き動かすエネルギーの源についてお聞きした。

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地域活性化を一生の仕事に

——鎌田さんはエキナカビジネスの立役者として大変有名ですが、現在はものづくりを通じた地域活性化事業に取り組んでおられるそうですね。

2年前からONEワンGLOCALグローカルという会社で、地域の希少な農産物を原料にしたジュースや未利用資源を活用した商品など、様々な商品を農家と連携して開発しています。
例えば、御所川原ごしょがわらというりんごは皮だけでなく果肉まで真っ赤で、健康によいといわれるポリフェノールのかたまりのような希少種なんです。ところが、小粒で酸味が強いという理由から農家に人気がなく、流通しないだけでなく木が年々切られていっていました。
でもこれからは、消費者が一律に甘いりんごを求める時代ではないと私は思うんです。むしろ酸味を好むお客さんもいて、そんな個性が尊重される多様性の時代になってきている。「私はこれがいい」という根強いファンに支えられて支持を得ていく商品が増えていくと考えています。
実際、その御所川原でスパークリングをつくってみたら、目を見張るような赤い色で、メンバーから思わず拍手が上がりました。2022年は当社の主力商品の一つになっています。私はこうした商品開発を通じて、これまで日の目を見なかった貴重な農産物に光を当て、地域の活性化につなげていきたいと考えているんです。

——この事業を始めたきっかけは何だったのですか。

JR東日本で地域活性化部門長を務めていた時に、加工工場立ち上げや小規模ホテルの再建、首都圏での地産品の販路拡大にたずさわり、知らなかった各地の魅力の奥深さに触れたことがきっかけです。
当時はエキナカビジネスが軌道に乗った後で、各地の駅ビル会社でも首都圏で人気のアパレルやスイーツブランドを誘致したいという相談が連日ありました。けれども首都圏と地域では、求められる役割や商品はちょっと違うんじゃないか。地域にはそこにしかないもっと大きなポテンシャルがあるはずだという思いがありました。
そうした中で新幹線の新青森駅開業に合わせ、青森での地域貢献事業を手掛けることになりました。現地を回ると、丹精込めてつくられたりんごが、傷があるとか見た目の悪さだけで山積みにされ、つぶしてジュースにするんだ、という言葉に驚きました。産地の人が考えていることと、お客様が求めるものとの間に大きなギャップがあることを実感したんです。

——そのギャップを埋めることが端緒に。

そこから企画を練って、以前旅行で訪れたフランスのシードル街道をヒントに2010年に立ち上げたのがA-エーFACTORYファクトリーでした。地元産のりんごからオリジナルのシードル(りんご酒)を製造し観光名所になる施設をつくったら、地域が盛り上がると考えたのです。
いまではたくさんの人が訪れる人気スポットになっていますが、当時シードルは無名で、社内で企画書を説明しても「? ? ?」という感じでした。こうした仕事に取り組むうちに、地域活性化を一生の仕事にしていきたいと考えるようになったんです。全国の産地の人とダイレクトに結びついて、現場の解決策を一緒に考えられるような仕事に携われたらと。

——その思いがいまのビジネスに繋がったのですね。

結果としては。しかし、最初に農家の方々にりんごを加工する話を相談した時には、「めぐせぇ(みっともない)」と、抵抗感を持たれました。でも、手塩にかけたりんごが規格外や日焼け傷ありというだけで二束三文で売られ、廃棄される現状はもっとつらい。加工によって生果とは異なるシーンで食され、長期保存も可能、さらに劣化せず商品が旅をできる。あちこちで熱意を伝え、何度も足を運び、本気を示すことで地元の協力者や知見をもらい、A-FACTORYができました。いまは現地企業の新規参入も増え、シードルが観光資源にもなってきました。
ここまでぎ着けることができたのは、30代でエキナカビジネスを立ち上げた時に、断られても断られてもめげずに挑戦し続けた体験があったからだと思います。

ONE・GLOCAL社長

鎌田由美子

かまだ・ゆみこ

茨城県生まれ。平成元年JR東日本入社。13年エキナカビジネスを手がけ、17年「ecute」を運営するJR東日本ステーションリテイリング社長に就任。その後、本社事業創造本部で「地域再発見プロジェクト」を立ち上げ、地産品の販路拡大や農産品の加工に取り組む。27年カルビー上級執行役員。30年ONE・GLOCAL設立、社長に就任。著書に『「よそもの」が日本を変える』(日経BP)など。