2024年11月号
特集
命をみつめて生きる
対談
  • 日本笑い学会副会長昇 幹夫
  • 自然療法研究家市川加代子

命をすこやかに
運ぶ

人間には誰にも「治る力」が備えられているという。産科医で日本笑い学会副会長の昇幹夫氏と自然療法研究家の市川加代子さんは長年、それぞれの立場で私たちの中に眠っている「治る力」を引き出すことにより多くの病が癒やされていくことを実証してきた。人間の命と向き合ってきたお二人が語る心身を健やかにする人間の生き方とは──。

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医師を驚かせた末期がん生還者たち

市川 のぼり先生、きょうは京都の治る力研究所まで足をお運びくださり、ありがとうございます。

 いや、同じ関西で旧知の間柄なのに、なかなか伺えずに恐縮しているくらいです。この際、お互いに先生と呼び合うのはやめませんか。何か病院に縛られているような気持ちになっちゃう(笑)。

市川 ではそうしましょう。

 市川さんと対談するに当たって、最初のご縁はいつだったのかと考えていたんですが、2003年の「第1回千百人集会」の時でした。この集会には末期がんから生還した124名の方も参加されていて、「これだけの生還者がいるのか」と医師としてただ驚き、圧倒されるばかりでしたけれども、市川さんもこの会場にいらしたのでしたね。

市川 ええ。この集会では、私共の療法でがんが治った方5人とスタッフ9人が、主催者の川竹文夫さんと一緒に分科会「今日から始める自然療法」に取り組みました。グランドフィナーレの時、聴衆の中に私も昇さんと共にいたんです。
1,100人集会と銘打ってはいますが、実際には2,000人くらいの人がいたのではないかと思います。特に2日目の「治ったコール」は、124人が次々に登壇し、「私はこの乳がんを治しました。治る、治る、治った。おめでとう」などと声高らかに叫ぶんです。それはもう圧巻でした。

 この集会を主催した川竹さんご自身が末期がんからの生還者ですよね。川竹さんはNHKの受信料の集金人からディレクターになられた叩き上げの方ですが、働き過ぎや食生活の乱れにより、40代で末期の腎臓がんになられる。どの病院でも死を宣告され、それまでの伝手つて辿たどって西洋、東洋医学の医師や民間療法の治療者などの話を聞くようになられた。末期がんから生還した人はいるのかを聴いてみたら、いるわいるわ。そこでそういう人たちがどうやって治ったかを世界中を回って取材して番組にされるんです。

市川 1995年に放映された「人間はなぜ治るのか」という番組がそれですね。自然療法に取り組む私のところにも取材に来られました。

 それまで「がんは治らない」というのが世間の常識でした。少し前までは告知すらしませんでしたから、この番組の内容は衝撃的だったと思います。ところが、医学界から大変なバッシングを受けて、いたたまれなくなった川竹さんは退局してガン患者研究所を立ち上げられるんです。

市川 「がんが治るということを世界に伝えるには、1,100人集会なるものを開く」とその頃から力強く宣言されていました。

 僕はこの集会に参加して以来、川竹さんが主催されるいろいろな会に参加するようになりました。
日本ウェラー・ザン・ウェル学会という医師や治療家の連携の場を立ち上げられた時、私は副理事長、市川さんは理事として関わらせていただきましたね。川竹さんとの出会いはがんが治る病であることを僕に確信させる大きなきっかけでもありました。

日本笑い学会副会長

昇 幹夫

のぼり・みきお

昭和22年鹿児島県生まれ。九州大学医学部卒業後、麻酔科、産婦人科の専門医として大阪で勤務。平成11年フリーに。現在、産婦人科診療もしながら、日本笑い学会副会長(笑いと健康の部門を担当)として笑いの医学的効用を研究。「健康法師」として講演活動を行っている。著書に『泣いて生まれて笑って死のう』(春陽堂書店)『笑って長生き』(大月書店)『笑いは心と脳の処方せん』(二見レインボー文庫)など。

泣いて生まれて笑って死のう

市川 昇さんは今年(2024年)喜寿を迎えられるそうですが、産科医だけでなく、日本笑い学会副会長として笑いが健康にもたらす効果を伝え続けられています。全国を飛び回ってとてもお忙しそうですね。

 元気で活動できるのはありがたいことだと思います。日本笑い学会はこの9月に創立30周年を迎えました。僕は主に笑いと医療の関わりをテーマに全国行脚あんぎゃしながら講演しているのですが、最近特にお伝えしているのは、「この超高齢社会でどういう人生の終わり方をしたいの? 泣いて生まれたからには笑って死のうよ」というメッセージなんです。
だけど、終末医療について調べているうちに、改めて気づいたことがあります。死んでいく時に人間の体がどうなっていくかを大学では教えていないんですね。
データを取ると、後期高齢者の場合、亡くなる数年前から食事の量、水分摂取量は同じなのに身についていかない。BMI(身長と体重から算出される体格指数)がダーッと落ちていく。腎臓も7割くらいしか働いていないでしょう。ところが、医療界には一日に水が何リットル、栄養が何カロリーというような指標があって、高齢者にもそれを当てはめようとする。
そうすると、当然摂取オーバーとなってむくんだり腹水になったり、場合によっては肺がやられて呼吸困難になったりする。枯れていくのが本来の姿なのに、元気な時を前提とするからおかしくなるんです。要するに医師は人間の自然死がどういうものかを知らない。

市川 ナンセンスな話ですよね。

 公表していますけど、実は僕も11年前から前立腺がんと向き合っています。4以下が正常値である腫瘍しゅようマーカーの値が年々上がってきて、いま35、6かな。だけど、僕はこれは老化の一種であり、そのことを自分の体を通して証明したいと思っているんです。正しい食生活をして、しっかりと睡眠をとり、ストレスを減らしていけば絶対にがんと平和共存できるはずだ、と。実際、いまなお無治療で無自覚です。
がんが老化の一種だと考えるのは、老衰で亡くなった人の8割から1センチ以下のがんが見つかっているからです。皆、そのことを知らないまま穏やかに死んでいった。だけど、これがもし見つかっていたとしたら「知らなかったことにしよう」とは言えないでしょう。無理な治療は苦痛を伴うし、寿命まで縮めてしまいます。

市川 その通りですね。

 ではどういう人生の終わり方がいいかという話ですが、昭和20年代、日本人の平均寿命は60歳でした。それがいま男女とも80歳を超えました。つまり、人生の3割が老後になったわけです。77歳の僕の寿命が仮に84歳だとすると、残された時間は7年間で2,500日ちょっと。そのうち寝る時間を6時間と計算したら残りは1,800日くらい。さらに仕事をする時間を引くと自由になる時間は700日あるかどうかなんですよ。そこから得た結論は「自分の自由な時間には嫌なことはせん(しない)。好きなことだけをする」(笑)。
もちろん、僕はいまも現役の産科医として社会のためにお役に立ちたいという気持ちが大いにあります。漫画家のやなせたかしさんが「人は自分の得意技で誰かの喜ぶ顔を見たい」とおっしゃっていますが、喜んでもらうと「また頑張るぞ」という気持ちになる。

市川 本当にその通りです。誰かに喜んでいただけてこそ、そこに感動がありますね。

 と同時に自分の人生を楽しむ時間も大切だと思います。何を楽しいと感じるかは人それぞれで、僕の場合でしたらまだ知らない日本や世界を再発見してみたい。それで最近も1週間ほどモンゴルを旅してきました。そうやって最終的には石原裕次郎のあの歌ですよ。「わが人生に悔いなし」。この歌を心から素直に歌えるかどうかが人生なんです。

自然療法研究家

市川加代子

いちかわ・かよこ

昭和24年京都府生まれ。家族のがん、自らの病気、子供の死をきっかけに中国伝統医学、米国分子矯正栄養学、各種療術法(ヨガ、気功、森手技など)、心理学等を学び、びわの葉やこんにゃく、生姜などを使った民間療法「市川式恢復療法」を確立。西洋医学で「打つ手がない」と言われた人たちを助け、生きる勇気と「治る力」を引き出してきた。著書に『あなたの「治る力」を引きだそう』(あさ出版)『台所はくすり箱』(銀河出版舎)『あなたの体の設計にミスはない』(新日本文芸協会)『健康からだ予報』(共同掲載/能気ラボラトリー)。DVDに『治る力』(共著/ガンの患者学研究所)。