2025年11月号
特集
名を成すは毎に窮苦の日にあり
インタビュー①
  • いすみ市長太田 洋

日本の明るい
未来を創る
オーガニック給食への挑戦

房総半島南東部に位置し、四季折々の豊かな自然に恵まれた千葉県いすみ市では、市内のすべての小中学校の給食に地元でつくられた完全無農薬の有機米を100%使用している。子供たちの未来のために安心安全の給食を――。その一念で「オーガニック給食」の実現に邁進してきたいすみ市長の太田洋氏に、取り組みの中で直面した逆境・困難を交え、子供たちの笑顔、よりよい日本を創るヒントを伺った。

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    日本の未来を創るオーガニック給食

    ――太田さんが市長を務める千葉県いすみ市では、市内のすべての小中学校の給食に地元でつくった無農薬栽培のお米、いすみ米を百%使用しているそうですね。

    ええ、いすみ市内には小学校が九校(児童数千二百七十人)、中学校が三校(生徒数七百五十人)ありますが、2017年10月からすべての給食に農薬を一切使わずに栽培した地元の有機米を提供しています。野菜についても同様の取り組みを少しずつ進めていて、今年度(2025年)は給食の主要5品目の約21%に有機野菜を使用する予定です。

    ――オーガニック給食を始めてどのような変化がありましたか。

    何より嬉しいのは、子供たちが「おいしい!」と笑顔で給食を食べてくれることですね。ごはんのおかわりもいっぱいしてくれます。実際、数字としても、オーガニック給食を始めてから、ごはんはもちろん、給食全体の食べ残しが年々減少しているんです。
    それから、子供たちが学校でこんなにおいしいご飯を食べたよって、親御さんに話すからでしょうね。オーガニック給食を始めたことで、親御さんの意識が変わってきたことを感じます。アンケートをとると、もっと給食に有機食材を使ってほしいという声がすごく多いですし、家庭料理にも地元で採れた安心安全な食材を選ぶという親御さんが増えているんです。

    ――家庭の食生活にもよい影響を与えている。素晴らしいですね。

    それから有機米をつくる農家の方々からも嬉しい声をたくさんいただいています。いま米価が高騰していると言われますが、そもそもお米の値段は長らく下がり続けてきました。それに高齢化も加わって日本の農業、米づくりは本当に大変な状況にあります。
    そのような中で、丹精込めてつくった有機米が学校給食に使われて、子供たちがおいしいと言って食べてくれる。米農家の方々にとって、それが誇りと自信につながっているんです。学校給食に使う有機米は市が価格保障をして購入(公共調達)しています。農家の方もつくったお米の出口、生活が保障されることで希望を持って米づくりを続けられるわけです。
    日本は遅れていますが、行政による有機農産物の公共調達は、ヨーロッパなどですごく進んでいるんですね。例えばデンマークは2015年、公共調達として学校や幼稚園、病院などで提供される食事の90%を有機産品とすることに決め、スウェーデンは2030年までに公共調達の有機産品の割合目標を60%としています。
    日本でも全国の自治体が公共調達を行えば、我が国の農業は活力を取り戻していけるはずです。
    また、いすみ市で有機農業をやりたいと、移住してくる人たちが増えているのも嬉しいことです。

    ――オーガニック給食は、皆が笑顔になれる取り組みなのですね。

    近年では健康志向など時代の変化もあって、オーガニック給食を取り入れたいという自治体が増えています。その輪が日本中に広がり、日本全体が元気になっていくことを願ってやみません。

    いすみ市長

    太田 洋

    おおた・ひろし

    昭和23年千葉県生まれ。法政大学卒業後、47年に千葉県庁に入庁。平成11年に千葉県庁を退職して政治家の道へ。同年、千葉県岬町長(後に合併でいすみ市に)。17年より現職。