2025年10月号
特集
出逢いが運命を変える
インタビュー①
  • 第十四代九重親方九重龍二

限界を決めるな

大横綱・千代の富士が教えてくれたこと

迫力ある突っ張り相撲で多くのファンを沸かせた元大関の千代大海。大関在位65場所は、歴代1位タイとしていまだ破られていない大記録である。現在は相撲部屋の名門・九重部屋の第十四代九重親方として、弟子たちの指導に心血を注ぐ九重龍二氏に、師匠である大横綱・千代の富士との魂の師弟関係、そこから得た人生を導く出逢いの要諦をお話しいただいた。

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    一人ひとりに愛情を持って向き合う

    ──ここの部屋はこれまで多くのりきを輩出してきました。いま親方としてどのような思いで部屋の運営や指導に当たっていますか。

    九重部屋は、相撲部屋の中でも〝名門〟と言われていることは十分認識しています。これまでの山、北の富士、私の師である千代の富士と、代々横綱経験者が親方を務めてきましたが、2016年に大関の私が部屋を継承したことで、格を一つ落としてしまった。ですから、「この部屋から必ず横綱を輩出するんだ」という決意で運営に向き合っています。
    また、弟子一人ひとり、親御さんから大切な我が子、命を預かっているわけですから、相撲はもちろんのこと、いまの社会に適応して生きていけるよう身も心も強い立派な力士、人間に育て上げていきたいという思いもあります。

    ──弟子を指導する上で、特に心掛けていることはありますか。

    それは全体的に指導するのではなく、弟子一人ひとりに問いかけることです。特にいまの若い子たちはそれぞれ力量が違いますから、朝、顔を合わせたら彼らの目を見て会話をして、一日一日の変化を把握して、その日に合ったけいのプランを考えています。
    先代もそうでしたが、これまでの相撲の稽古は、どうしても横並びでやっていました。であれば、全員同じ1日1,000回という目標に向かって四股を踏む。でも、それだと、どうしても500回、600回しかできない子が出てきてしまうんです。そうじゃなくて、それぞれの子がいま到達できるレベルの目標を設定してあげれば、毎日の稽古に取り組む姿勢も変わってきますし、何より楽しく努力、上達していけると思うんですね。

    ──楽しみながら努力する。

    ですから、九重部屋のスローガンは「楽しく真剣にやろう」なんです。2021年に部屋を移転した時にも、どうすれば弟子が育ってくれるか考えて、あえて冷房を完備した建物にしました。
    いま21人の全員可能性のある若い弟子たちが日々稽古を頑張ってくれています。「力士ファースト」の姿勢をこれからも大事にしながら、一人でも多くの立派な力士を育てていきたいと思います。

    第十四代九重親方

    九重龍二

    ここのえ・りゅうじ

    昭和51年大分県出身。元大関・千代大海。中学卒業後、大横綱・千代の富士が親方を務める九重部屋に入門。平成4年に初土俵。11年大関に昇進。戦歴771勝528敗休場115。幕内最高優勝3回。大関在位65場所という歴代1位タイの大記録を持つ。22年現役引退。28年九重部屋を継承。