2021年1月号
特集
運命をひらく
  • 思風庵哲学研究所所長芳村思風

困難を乗り越える
感性型リーダーシップ10か条

歴史的な大転換期を迎えたいま、企業におけるリーダーのあり方も変化を求められている。理性ではなく人間の心に焦点を当てた感性論哲学の創始者である芳村思風氏は20年以上前、すでにこの流れを予見し、新たなリーダー像を提唱していた。新時代に対応できるリーダーとはどのようなものだろうか。

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大転換期に求められる経営のあり方

いまはまさに時代の大転換期です。大転換期には従来のあらゆる仕組み、考え方が根底からくつがえされていくのが常ですが、いまほどの大転換の時期は、過去の歴史にはなかったのではないでしょうか。

大きな視点で捉えれば、理性や物質文明に象徴される西洋の時代から、感性や精神的な豊かさを重視する東洋の時代への転換、そして近代という古い時代から新しい時代への転換の時を迎えています。

これまで、人間が人間を支配する縦型構造の社会が長く続いてきました。しかし、いまや人間が人間を支配するのは悪であるという倫理観が世界に広まり、結果として横型のフラットな社会が形成されつつあります。

人間観という点でも大きな変化が見られます。人間の本質は理性であると説く西洋的な考えから心、感性であるという東洋的な考えにシフトしてきているのです。

しくもこのような変化を強くバックアップしたのが新型コロナウイルスでした。例えば、以前から求められながらなかなか進まなかった働き方改革は、このコロナウイルスをきっかけにいちじるしく進化しました。Zoomズームなどのオンラインを使ったリモートワークがまたたく間に定着し、自宅にいながら仕事をするのが当たり前の光景になりました。併せて都会から地方に移り住む人が増えていることで、人口の過密と過疎の解消にも一役買っています。あまりの激変ぶりに、天が私たちに対して新たな働き方、生活を教え導いてくれたのではないかとさえ思うほどです。

新型コロナウイルスは他にも私たちに新たな問題を提起しました。ウイルスはいま世界の貧困層の間で特に拡大を続けています。貧困層をなくさない限りウイルス感染を根本的に抑えられないことを思えば、これは全人類の中産階級化を促す天のメッセージと捉えることができます。低所得者層が中産階級化すれば消費の拡大が進み、国全体が潤います。このように皆で豊かさを共有するという経済に対する感覚の変化がいま生じているのです。

このような歴史的な変化を踏まえると、経営のあり方もおのずと変化させていかなくてはいけないことが分かります。

従来の経営のスタイルは支配・命令・管理に基づく「理性型の経営」でした。つまりリーダーには部下に命令して支配し、管理して率いていくという強力なリーダーシップが求められていました。しかし、こういうリーダーの姿勢はいま厳しく批判されています。地位をかさに着た暴言や暴力はパワーハラスメントとして犯罪と認識されるまでになりました。

理性型の経営に代わる新たなスタイルを私は「愛の経営(感性型の経営)」と呼んでいます。新しい時代には、部下を理不尽に叱ったり批判したり短所をあげつらったりするのではなく、思いやりや心遣いを持って接するリーダーの姿勢が求められます。部下指導は命令から対話へ、マネジメントは管理からパートナーシップへと変化していかなくてはいけません。お互いに認め合い、感謝し合う関係を築き上げ、共に会社を成長させていくのです。

ここで一つ強調しておきたいのは、リーダーはフォロワーと一対の関係にあるということです。つまりリーダーは自分の意見を一方的に押しつけるのではなく、フォロワーが喜んでついていきたくなるような魅力ある存在でなくてはいけません。「All for one, one for all.(皆は一人のために、一人は皆のために)」という空気は、そういうリーダーの下で醸成じょうせい」されていきます。リーダーシップとフォロワーシップが有機的に結びついた時、そこに生まれてくるのが組織力なのです。

思風庵哲学研究所所長

芳村思風

よしむら・しふう

昭和17年奈良県生まれ。学習院大学大学院哲学博士課程中退。45年思風庵哲学研究所設立。感性論哲学の創始者。名城大学元講師。著書に『人間の格』、共著に『いまこそ、感性は力』(共に致知出版社)など。