2025年10月号
特集
出逢いが運命を変える
インタビュー③
  • ヨシダグループ創業者、会長CEO吉田潤喜

人生は金儲けでなく
人儲け

米国では一家に1本あると言われるほど親しまれている〝日本発〟の調味料がある。醤油・みりんベースの自家製ソースを原点に持つヨシダソースだ。辛い幼少期を経て地元京都から単身渡米し、ゼロから富と名声を手にした半生を、吉田潤喜氏はこう述懐する。「人生、金儲けやない、人儲けや」。喜寿を控える氏に、価値ある人生を送る秘訣を伺った。

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    ヨシダソース全米スーパーに復活

    ──吉田会長には、本誌で約20年前にインタビューさせていただきましたが、このほど看板商品・ヨシダソースの米国内の独占販売権を24年ぶりにハインツ社から買い戻され、75歳でなお精力的に活動中と伺いました。いまも若々しい気を感じます。

    嬉しいこと言ってくれるね。お酒出してもらおうか(笑)。
    僕は最近、ものすごくワクワクすることがある。それは人との出逢いです。「そで振り合うも他生たしょうの縁」と言うけど、何てことのない出逢いにも感動するんですよ。
    というのも、75歳にして現役で会社をやり、こうして日本に来られている。6月に横浜の金沢文庫にある会員制スーパーのコストコで久しぶりのサイン会と実演販売をしました。あの時は、お客さんがソースを一本買ってくれるのを見るだけで、駆け寄って抱き締めたいほど感動したね。

    ──1本売れることにいまだ感動がある。

    正直ずっと、アメリカでの商売なんて一代で終わりだと思っていたの。だから2000年、会社の売上高が2,500万ドルだった時、ソースの米国内の独占販売権をトマトケチャップで有名なハインツ社に2,400万ドルで譲渡して、ソースの海外販売、物流や不動産などグループの経営に注力してきました。それが去年(2024年)、アメリカ育ちの優秀な19歳の孫が、会社を継ぎたいと言い出した。

    ──後継者が現れた。

    だから余計に、毎日が感動の連続なんです。
    僕はいつも「決断は10秒。まず動け。動いてから心配せえ」と言うんだけど、孫の言葉を聞いた日の午後、すぐ会社の弁護士に電話して頼みました。「すぐ、ヨシダの米国内の独占販売権を買い戻してくれ」と。

    ──先方は応じたのですか。

    僕らのことをアホと思ったようですね。そりゃあ、向こうは膨大な数のブランドを抱えていて、ヨシダはその一つ。昔は全米に入っていたコストコでもウォルマートでもここ何年かで棚から消え始めていました。だから安く売ってくれましたよ。
    ただ、そのことが『ウォール・ストリート・ジャーナル』や『フォーブス』に取りされて米国中の話題になっちゃった。そうしたら、昔一緒に商売をやったコストコの元執行副社長から「ジュンキ、手伝わせてくれ」と連絡がありました。さらに、ウォルマートやフレッドメイヤーといった名立たるスーパーの元幹部や社長たちも「俺も手伝う」と言って手を差し伸べてくれたんです。
    おかげであっという間に全米のコストコやウォルマートにヨシダソースが復活し、7~8か月で、それまでの1年分の売り上げを超えるようになりました。

    ──たった数か月で復調を。

    これは自慢じゃないですよ。やっぱりね、人生、金もうけやない、人儲けや。人儲けって、人をうまく使って儲けるとか、お金をだまし取ることとは違う。人生は人との出逢い、心から応援してくれる人をどれだけつくれるか。それこそが人間の勲章やと思います。

    ヨシダグループ創業者、会長CEO

    吉田潤喜

    よしだ・じゅんき

    1949年京都府生まれ。69年渡米、空手指導などで生計を立てる。82年ヨシダソースの製造販売を開始。2003年アメリカ合衆国政府より優秀中小企業家賞を受賞する。ソース事業で培った信用をベースに物流、不動産など経営の多角化を進め、現在は18の企業を擁し、年商200億円を超えるヨシダグループ会長。著書に『でっかく、生きろ。』(望月俊孝氏との共著/きずな出版)など多数。