2016年12月号
特集
人を育てる
インタビュー③
  • 野口石油社長野口義弘

愛は与えっぱなし

福岡県北九州市内にガソリンスタンド3店舗を構える野口石油。ここで、20年以上にわたり140名に及ぶ非行少年を雇用してきたのが、社長の野口義弘氏だ。何があっても決して諦めることなく非行少年たちを更生へと導くその姿勢から、人を育てる要諦を学ぶ。

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本当に悪い子は1人もいない

──野口さんの経営するガソリンスタンドでは、これまで多くの非行少年の就労支援に取り組んでこられたそうですね。

平成7年にいまの野口石油を設立して以来ずっと続けてきたことで、雇用した少年少女は140名を超えました。現在、北九州市内で経営する3つのスタンドにはアルバイトも含めて33名のスタッフが働いていますが、実はこれ全国1位なんです。普通、うちの規模のスタンドだと半分以下のスタッフでやっているところがほとんどですから。
なぜそんなにスタッフが多いのかというと33名のうち21名、つまり3人に2人が元非行少年なんです。でも何も知らない方が見たら、スタンドに立つ彼らにそんな過去があるなんて絶対分からないでしょうね。
うちに来る子供の約7割弱が生活困窮者の家庭に育っていて、さらにその2割弱の母親が妊娠中に薬物を常習していました。その影響で計算がよくできないとか平仮名しか書けないなど、子供たちには軽度の知的発達の遅れも見られます。普通の家庭で育っていれば当たり前に育つのでしょうが、ここに来るのは当たり前の生活を奪われた子供たちなんですよ。

──そういった子供たちが野口さんと出会うことで、変わっていくわけですね。

手前味噌ではありますが、出会う大人によって子供たちの人生が大きく変わっていくのだと思います。ですから余計にそういった境遇の子供たちを放っておけないんですよ。そもそも、これまで多くの子供たちを見てきましたけれど、本当に悪い子なんか1人もいないんです。
それにいままで関わってきた子供たちが、大人になって結婚式に呼んでくれたり、生まれた子供を見せにきてくれた時の喜びというのはお金には替えられませんし、それが1つの励みになっていると言えるかもしれません。

野口石油社長

野口義弘

のぐち・よしひろ

昭和18年鹿児島県生まれ。熊本県内の中学卒業後、九州産交に入社。ガソリンスタンド会社に勤務後、平成7年野口石油を設立、社長に就任。同年福岡保護観察所に協力雇用事業所として登録。現在、北九州市内に3か所のガソリンスタンドを経営。27年吉川英治文化賞を受賞。福岡県協力雇用事業所会長、北九州市非行を生まない地域づくり特命大使などを務める。