2019年9月号
特集
読書尚友
インタビュー③
  • 批評家前田英樹

愛読に生きる勇気

批評家として鋭い評論活動を続けてきた立教大学名誉教授の前田英樹氏は、読書の学びを自らの人生の糧とする〝愛読〟の大切さを訴えてきた。日々大量に生み出される雑多な情報に振り回され、確固たる生き方を見失いがちないま、私たちはどのように読書によって自らを磨き高めていけばよいのか。前田氏に豊富な事例を交えて語っていただいた(写真:本居宣長の書斎を忠実に復元した自身の書斎にて)。

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    一人の時間に新たな自分を発見する

    ——前田さんは2年前に大学を退職され、現在は評論活動を続けながら、この道場で読書と剣術の日々を送っておられるそうですね。

    僕は大学に勤めながら、若い頃に始めた新陰流しんかげりゅうの剣術の稽古けいこもずっと続けてきましてね。この建物は大学の退職を機に、僕が一人で新陰流の稽古をするために建てた道場なんですよ。一階が道場で、二階の書斎は伊勢松坂に残されている本居宣長もとおりのりながの書斎をそっくりそのまま復元したものです。

    ——ああ、本居宣長の書斎を。

    大工さんがすごい人で、頼んでみたら本当につくってしまったんですよ。それで一階で稽古したら二階で読書する、いまはそんな日々です。二階では古典しか読まないようにしています(笑)。
    この道場は、長いこと大学に勤めてきて、新陰流を稽古してきた僕が行き着いた結論ですね。ですから、ここで人をたくさん集めて何か教えようという考えはないですし、まあ、一人にしておいてもらいたいということなんです。

    ——ここは前田さんが追い求めてきた理想の場所なわけですね。

    やはりこういうところで一人で稽古、読書していると、いろんなことに新しく気づきます。
    「いままで自分はどれだけ自分のことが分かっていなかったか」とか「どれだけできないことがあるか」とか、大学を退職して2年ちょっとの間に随分気づくことがあって、「ああ、そういうもんか」と自分で自分に感心していますよ。

    批評家

    前田英樹

    まえだ・ひでき

    昭和26年大阪生まれ。批評家。中央大学大学院文学研究科修了。立教大学現代心理学部教授などを歴任し、平成29年より立教大学名誉教授。著書に『独学の精神』『愛読の方法』(共にちくま新書)『批評の魂』(新潮社)『沈黙するソシュール』(講談社学術文庫)など多数。