2026年1月号
特集
拓く進む
対談
  • 元日本郵便副会長稲村公望
  • 第29代航空幕僚長田母神俊雄

自立自尊の国、
日本へ拓き進め!

かつて世界2位を誇ったGDP(国内総生産)はいまや中国、ドイツに抜かれるなど、様々な内憂外患に直面し、その活力を失いつつある日本。どうすればわが国は自立自尊した豊かな強い国として甦ることができるのだろうか。憂国の士である元日本郵便副会長・稲村公望氏と第29代航空幕僚長・田母神俊雄氏の提言から、日本の明るい未来を拓く道筋を探る。

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    対談は2025年10月9日(木)、都内ホテルにて行われた。

    男同士の交わりは淡き水の如し

    稲村 最初の出逢いはいつだったか覚えていませんが、がみさんとは随分長い付き合いですね。

    田母神 稲村さんが沖縄郵政管理事務所の所長をされていた1997年からですよ。その頃、私は当時の佐藤守空将のナンバー2(副官)、南西航空混成団司令部幕僚長ばくりょうちょうとして沖縄に赴任して、稲村さんとご縁をいただいたんです。
    当時から、稲村さんはそれ行けドンドンの人で(笑)、初対面からとてもよく気が合いましたね。

    稲村 いや、私は本来気が弱い人間なんです(笑)。それに田母神さんは北の福島県生まれの軍人で、私は南のあまとくしま(鹿児島県)生まれの役人ですから、気が合うようで、そうでもない(笑)。長く関係を続けるには、むしろそのほうがいいのかもしれません。
    私は常々、男同士の関係というのは、「あわき水のごとし」が一番よいと思っていましてね。田母神さんとは、あちらこちらでお会いしていますが、そこまで深い関係にはならなかったし、こうして2人で話をする機会もいままであまりありませんでした。ですから、きょうはどのような対談になるのか、とても楽しみにしていました。

    元日本郵便副会長

    稲村公望

    いなむら・こうぼう

    昭和22年奄美・徳之島生まれ。47年東京大学法学部政治学科卒業、同年郵政省入省。米国フレッチャー法律外交大学院修了。55年在タイ日本国大使館一等書記官。58年郵政省復帰。沖縄郵政管理事務所所長、総務省政策統括官(情報通信担当)などを歴任。平成15年日本郵政公社発足と同時に常務理事就任。「郵政民営化」に断固反対。24年新会社「日本郵便株式会社」副会長就任。26年日本郵便株式会社常任顧問を辞任。「月刊日本」客員編集委員。岡崎研究所特別研究員。令和元年春の叙勲で瑞宝中綬章受章。著書に『続々 黒潮文明論』(彩流社)など多数。

    郵政民営化で日本国民が失ったもの

    田母神 稲村さんと接していていつも感じるのは、やはり祖国・日本、故郷への深い愛情ですよ。何をしても、何を話しても、愛国の情がほとばしっているのが稲村さん。
    例えば、郵政省の幹部でありながら、小泉政権が行った郵政民営化に対して断固反対を貫いたでしょう。これもよほど信念がなければできることではありません。

    稲村 その頃務めていた日本郵政公社常務理事や日本郵便副会長の職も、表向きは任期による退任でしたが、本当は郵政民営化反対を理由にクビになったんですよ。
    今年(2025年)5月に、参政党のかみそうへいさんが参議院議員の財政金融委員会で郵政民営化について質問をしたことで、郵政民営化後、日本郵政の持っていた資産約360兆円のうち、約137兆円が減損げんそんしたことが明らかになりました。日本郵政の資産である郵便貯金や簡易保険は、そもそも国民が預けた資金です。それが約137兆円も失われてしまったというのに、日本のメディアは、まったく報じませんでした。

    田母神 その事実が国民に知らされないのも、国会で検証されないのも全くおかしなことですよ。
    もともと郵政が国民から集めた資金は、「財政投融資」という素晴らしい制度のもと、低い金利で地方の道路や橋、鉄道、学校の体育館など長期的な視野に立った日本のインフラ整備、国民生活の向上のために使われていました。
    ところが、民営化されれば、とにかくもうけを出さなくてはいけませんから、例えば、金利の高い海外の投資ファンドに預けて運用するということになるわけです。日本国民が預けた資産が日本人のためではなく、海外の投資ファンドの利益のために使われる、これほどばかげたことはありません。
    公営では無駄が多い、民営化すればサービスが向上するなどと言って郵政解散が行われ、郵政民営化は進められたわけですが、結果的に国民はだまされたんですよ。

    稲村 結局、郵政民営化は郵便配達や保険のサービスがよくなるという話ではなく、グローバル金融資本などの圧力を受け、日本の庶民が貯め込んだ資金を国際市場に流し、儲けようという発想で行われたのだと私は考えています。
    ですから、「この稲村公望、郵政民営化には命を懸けても断固反対だ!」って言ったんですよ。

    田母神 私は地方の生まれですからよく分かるのですが、昔はどこの田舎にも特定郵便局というのがありました。そこには顔見知りの近所の人が勤めていて、うちの母親の頼み事なども親身になってよく聞いてくれていたんですね。
    ところが、民営化後、実家に帰った時に、私が母の代わりに貯金を下ろしに行くと、委任状がないとできませんと言うんです。いやいや、私があの家の息子だということは知っているでしょうと言っても、だめなものはだめだと。
    それにハガキも昔は1枚50円くらいだったんです。ところが最近、郵便局に行ったら値上げして85円だと言われて驚きました。これでは気軽にハガキも出せません。民営化で国民が幸せになったことがあるのかと問いたいですね。

    稲村 ええ、年賀状も以前のようにたくさん出すことが難しくなってきました。ハガキや年賀状を出しにくくして、日本国民のつながりや団結心を壊したい人たちがいるんじゃないかと思います。実際、立場のある立派な方が、「日本人は年賀状を出さなくていい」と言ったのを私は聞いたことがある。

    田母神 恐ろしいことですね。
    特に地方にとって、郵便局というのは国民生活を支える大事な生活インフラでした。いま何かと悪者にされている農業協同組合も同じで、地域の人々から集めた資金でスーパーを経営したりして、地方の生活を支えてきたんです。

    稲村 ちなみに、日露戦争でも郵便局が重要な役割を果たしたことはあまり知られていません。ロシアのバルチック艦隊の姿を目にした沖縄・宮古島の漁師が、一昼夜命懸けで舟をぎ、石垣島の郵便局から大本営に電報を打ったことで、日本海軍はバルチック艦隊に勝利することができたんです。
    ですから、郵便や簡易保険は金融商品ビジネスではなく、本来は国民の生活と財産を守るという公益性を最優先にえなければいけません。よりよい日本の実現のためにも、郵政民営化の失敗を直視し、誤った政策を修正する勇気を持つことこそが、いまの政治に求められているのだと思います。

    田母神 全く同感で、郵便局は本来の役割を取り戻すべきです。

    第29代航空幕僚長

    田母神俊雄

    たもがみ・としお

    昭和23年福島県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊入隊。航空幕僚監部装備部長、統合幕僚学校長、航空総隊司令官を経て、平成19年第29代航空幕僚長に就任。20年退官。現在は危機管理、政治、国際情勢分析の専門家として、講演、著述活動を行う。著書に『大東亜戦争を知らない日本人へ』(ワニブックス)『国家の本音』(徳間書店)『愛国者』(青林堂)『戦争の常識・非常識 戦争をしたがる文民、したくない軍人』(ビジネス社)など多数。