2025年5月号
特集
磨すれども磷がず
インタビュー②
  • 九州学院剣道部監督米田敏郎

〝当たり前のことを
当たり前にやる〟

高校剣道界において圧倒的な優勝回数を誇る熊本県の九州学院高校剣道部。監督として同剣道部を常勝集団に育て上げたのが、剣道八段の米田敏郎氏である。米田氏が語る師の教えや苦悩の中から掴んだ人財・組織づくりの要諦、指導者に求められる条件とは――。

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強さの秘訣は日常生活にあり

──米田さんが1992年から監督を務める熊本県の九州学院高校剣道部は、全国高校選抜大会で7連覇含む優勝11回、玉竜旗で4連覇含む優勝11回など、圧倒的な実績を誇ります。その強さの秘訣ひけつはどこにあるのでしょうか。

日本一になるためには、本当にいろいろな細かい部分をおろそかにせず、一つひとつクリアして積み上げていくことが必要ですから、とてもひと言では言えません。
ただ、大事なのは、剣道の稽古けいこだけでは強くなれないということです。例えば、引っ込み思案じあんの子は試合でもここぞという時に打ち込めない、我儘わがままな子は団体戦で自分本位な戦い方をしてしまうというように、選手の性格や日常の生活態度がそのまま剣風、戦うスタイルに表れてきます。
ですから、厳しい稽古はもちろん、生活を剣道に置き換えなさい、生活の中に剣道があるんだと、授業態度から挨拶、掃除に至るまで日常生活をよりうるさく指導してきました。これは剣道部の生徒にとって基本的なことでありますし、やはり日常生活を含めて日本一に相応ふさわしいチーム、人間になってこそ日本一になれるんです。

──日常生活から勝利への道は始まっているのですね。

そして指導の際に意識しているのが「理解力」です。なんで日常生活を指導するのか、厳しい稽古をするのか、それぞれの生徒が理解、納得して取り組んでもらうことを大事にしてきました。
というのも、相手と一対一で対峙たいじする剣道では、最終的には自分で考え、判断することが求められるからです。実際、日頃から自立して物事を考え、判断する習慣が身についている子は、ピンチの時でも咄嗟とっさに対応して勝ち切ることができますし、逆に言われたことしかやらない、やらされ意識でいるような子は、ピンチやプレッシャーに弱いところがあります。

──それぞれが自主自立して考え、行動する習慣を養う。どんな分野にも通じる大事なことですね。

ですから、日々の指導においても、なるべく生徒たちが理解しやすいよう、「当たり前のことを当たり前にやる」「凡事徹底」といった言葉を使って自分の考えを伝えていますし、一人ひとりとのコミュニケーションもすごく大事にしています。それぞれがやるべきことを理解した上で日本一になるために必要なこと、当たり前のことを当たり前にやり続ける。あえて言えば、ここに九州学院剣道部の強さがあるのだと思います。

九州学院剣道部監督

米田敏郎

こめだ・としろう

昭和44年熊本県生まれ。小学2年生から剣道を始める。進学した九州学院中学・高校剣道部、中央大学剣道部にて活躍。大学卒業後、教員として九州学院に戻り、剣道部コーチを経て平成4年より監督(高校・中学)。以後、高校ではインターハイ団体優勝10回・個人優勝5回、全国高校選抜大会優勝11回(7連覇)、玉竜旗優勝11回(4連覇)、魁星旗争奪全国高校剣道大会優勝7回(3連覇)、剣道3大大会(選抜・玉竜旗・インターハイ)にて3年連続3冠達成、中学では全国中体連剣道大会団体優勝10回・個人優勝5回など、九州学院剣道部を全国屈指の強豪校に育て上げる。令和2年10月剣道八段審査に合格。