2020年6月号
特集
鞠躬尽力
  • 東洋学園大学客員教授、元空将織田邦男
新型コロナウイルスに打ち克つ

危機管理の要諦

新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっている。日本でも感染者が増え続け、緊急事態宣言が出されるなど予断を許さない。私たちはこの国家的危機にどう対処すればよいのか。航空自衛隊の元空将として日本防衛の最前線に立ってきた織田邦男氏に、豊富な事例を引きながら、国家における危機管理の原則、要諦を教えていただいた。

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    危機に求められるのは国民のフォロワーシップ

    中国武漢市で発生した新型コロナウイルスが世界各地で猛威を振るっています。感染が確認された国と地域は180以上、感染者は250万人に上り、死者数も17万人を超えました。3月11日には、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が、「パンデミック(世界的大流行)」を表明。日本でも4月7日に「緊急事態宣言」が出され、クルーズ船乗船者を含めてこれまで1万人以上が感染、200人以上が亡くなっています。(世界・日本とも4月22日現在)

    まさにいま日本は国家的危機にあり、有事の状態にあります。まずはこの現実をしっかり認識し、リーダーはもちろんのこと、何より私たち国民一人ひとりが「いまは有事である」と頭を完全に切り替えて、国家の危機管理に向き合っていかなければなりません。

    国家の危機管理に最も求められるのが、リーダーの決断に対し国民が積極的・自主的に協力する「フォロワーシップ」です。どんなに優れたリーダーがいても、それに国民が協力しないようでは何事もうまくいきません。指導者のリーダーシップと、国民のフォロワーシップが一体となって初めて国家の危機管理は成功するのです。

    例えば、共和政時代の古代ローマでは、平時には毎年2名の執政官を選挙で任命し、政治を切り盛りしていました。しかし外敵の侵入や疫病の流行といった有事に際しては、短期間(通常6か月)という期間を区切り、一人の人物に全権委任して危機管理に当たらせました。いわゆる「ディクタートル(独裁官)制度」です。そして重要なのは、その期間中、国民はディクタートルの決断を批判せず、全面的に従うということです。

    平時と有事で決定的に違うのは時間的要求です。「船頭多くして船山に登る」という言葉があるように、「小田原評定ひょうじょう」では、時間ばかりかかって結論が出ません。新型コロナウイルスの場合は、決断に時間がかかればそれだけ感染が蔓延まんえんしてしまいます。ですから、「ディクタートル制度」は、日々刻々と変化していく状況に対し素早く決断し、実行していくことが求められる危機管理の本質に合致した制度であるといえるでしょう。

    とはいえ、現代の民主主義国家の日本で、古代ローマの「ディクタートル制度」をそのまま採用することはできません。ただ、危機管理で求められる本質は現代と何ら変わらないはずです。危機の間は、国家のリーダーである総理が叡智えいちを集めて迅速に決断し、国民はそれに積極的に従う。そして危機が去った後に、リーダーの決断が正しかったのか徹底した検証を行い、不満があるならば選挙で落とす。これが民主主義下の「ディクタートル制度」であり、国家の危機に対処する原則なのです。

    東洋学園大学客員教授、元空将

    織田邦男

    おりた・くにお

    昭和27年愛媛県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊に入り、F-4パイロットなどを経て、米空軍大学留学、米スタンフォード大学客員研究員、航空幕僚監部防衛部長、航空支援集団司令官などを歴任。平成21年退官。27年東洋学園大学客員教授、30年より国家戦略研究所所長。