2025年1月号
特集
万事修養
インタビュー②
  • 俳優サヘル・ローズ

一人でも多くの人に
〝ありがとう〞の
言葉を届けたい

戦火の中のイランに生まれ、幼少期を孤児院で過ごしたサヘル・ローズさん。八歳の時に養母であるフローラさんと共に来日。現在は俳優・タレントとして幅広く活躍、難民などの国際人道支援活動にも尽力するサヘルさんに、壮絶な人生の歩みを交え、一人ひとりが心豊かに、幸せに生きるヒントをお話しいただいた。

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忘れられていく人々の声なき声になる

──イラン出身のサヘルさんは俳優、タレント、国際人道支援活動など幅広い分野でご活躍です。いまは特にどのようなことに力を入れて取り組んでおられますか。

とてもひと言では言い表せないのですが……。いま私の一番の軸になっているのは、児童養護施設で暮らしている子ども達や戦争などで居場所を奪われた人々が世の中から忘れ去られないように、どうやって自分が相手の声になり、電波塔になってその存在を伝えていくかなんです。
助けを必要としていても、ニュースに取り上げられなくなっていき、世間の関心が薄れ、「過去の人・出来事」として忘れ去られてしまいます。多くの人の目に触れる仕事をしている私だからこそ、いい意味で自分の名前を利用して、忘れ去られていく人々のために何かできることがある。その思いで支援活動に取り組んでいます。
そのため、私はなるべく現地へ行き、当事者の声を聴くことを大事にしてきました。これまでイラクやバングラデシュ、カンボジア、祖国のイラン、つい最近ではウガンダなどを訪れました。

──やはり現地に足を運ぶことで、初めて見えることがありますか。

はい。現地の人々は皆、肌の色も宗教も関係なく誰かとつながりたいと思っていますし、人生の夢や目標を持って懸命に生きています。実際に触れ合うと本当にぬくもりにあふれた人ばかりなんです。
特に驚いたのは、祖国も居場所も奪われたのに、多くの子ども達が憎しみや恨みの感情を抱いていないことです。ウガンダの難民居住地で出会った子ども達も「なぜ自分たちが傷つかなければいけないの?」ではなくて、「これ以上、同じことが繰り返されてはいけない」と話してくれました。誰もが争いたいわけじゃない。結局、紛争の一番の犠牲者になるのは一般市民なんです。
また、対立する双方がそれぞれの戦う正義を持っていて、外部にいる私たちがどちらかが悪いと白黒つけたり、一方に加担したりすることは決して解決にならないことも学びました。ですから、平和の種きとして、私は特に戦火で傷ついた子ども達が同じことを繰り返さないよう武器ではなくペンを握ってもらう環境づくり、教育支援に力を入れているんです。

──日本でテレビを見ているだけでは伝わってこない現実です。

そして現地を訪れる中ですごく疑問を感じるようになったのは、先進国ではSDGsと言いながら、私たちの豊かな生活が途上国の人々を低賃金で働かせ、さくしゅすることで成り立っているということもまた事実だということです。この機器の部品一つだってそう。現地で見た事実を伝えることで、一人ひとりがフェアトレードの商品を選ぶようになれば、すぐに戦争や搾取を止められなくても、これ以上、加担しないことはできるはずなんです。
自分にできる小さな行動が平和な世界へと繋がっていく。そう信じています。

俳優

サヘル・ローズ

サヘル・ローズ

1985年イラン生まれ。幼少期から孤児院で暮らし、7歳でフローラの養女として引き取られる。8歳でフローラと共に来日。高校時代から芸能活動を始め、俳優としても映画やテレビで活躍。主演映画『冷たい床』は様々な国際映画祭で正式出品され、イタリア・ミラノ国際映画祭にて最優秀主演女優賞を受賞。また、過去には国際人権NGO「すべての子どもに家庭を」の活動にも参加し、親善大使を務め、私的にも国内外の子供たちや難民たちの援助を続けている。アメリカの人権活動家賞受賞。著書に『Dear16とおりのへいわへのちかい』(イマジネイション・プラス)『これから大人になるアナタに伝えたい10のこと:自分を愛し、困難を乗りこえる力』(童心社)など。現在初監督作品『花束』が公開され、大きな話題を呼んでいる。