2025年9月号
特集
人生は挑戦なり
インタビュー①
  • ジャクエツ代表取締役徳本達郎

「あそび」の力で
未来価値を創造する

「未来は、あそびの中に。」をスローガンに、保育教材や遊具の企画・制作・販売、さらには多様な人々の居場所や舞台となる公共空間のデザイン、コンサルティングまで、「あそび」の持つ可能性に挑戦し続けているジャクエツ。三代目社長として同社を牽引する徳本達郎氏が語る創業の原点、挑戦の軌跡から、事業永続の要諦を学ぶ。

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    いまも息づく創業者のDNA

    ――御社は保育教材や遊具の企画・開発・製造から、人々が楽しく遊べるまちづくりや施設づくりの空間デザイン、コンサルティングまで「あそび」をテーマにした様々な事業に挑戦し、今年(2025年)で創業110年を迎えるそうですね。

    当社が100年以上続いてきたのは、やはり創業者の精神、DNAを今日までしっかり受け継ぎ実践してきたからだと思います。
    創業者の祖父・徳本達雄は、明治26(1893)年、生家である福井県敦賀つるがの良覚寺(じょうしんしゅういず)で生まれ育ち、進学した東洋大学で哲学者の井上えんりょうに影響を受けるんです。
    井上円了は、「哲学の極致は実行にあり」との言葉を残しています。知識だけでなく社会における哲学の実践を非常に重んじた人でしたから、その教えが後に当社を創業し発展させていく祖父の原動力になるんです。

    ――井上円了のもと、知識や論理を社会で実践する大切さを学ばれた。

    当社では円了の「活動主義」と同じく、行動に移すことをとても大事にしています。

    それから、もう一人影響を受けた人物が、日本初の口演童話会(童話の読み聞かせ)を主宰するなど、「日本のアンデルセン」と呼ばれた児童文学者、日本における幼児教育の先駆者・しまたけひこ氏です。久留島氏は現・野村グループ創業者の野村徳七とくしちの支援を受け、1910年、子どもの個性や自主性を尊重する当時としては画期的な教育を実践した「わらび幼稚園」を、東京・青山に開園したことでも知られています。
    そんな久留島氏を尊敬していた祖父は、東洋大学卒業後に郷里に戻り、幼稚園設立に向けて動き出すんです。毎日のように地元の有力者や資産家を訪ね歩き、幼児教育の必要性を訴えた結果、多くの支援が寄せられました。特に敦賀有数の実業家であるおおしょうしち氏は、資金と共に所有する土地まで貸してくれ、祖父はそこに敦賀市で最初の幼児教育施設となる「みどり幼稚園」を開園します。1916年、23歳の時です。

    ――若き創業者の熱意が、幼稚園設立への道を開いたのですね。

    :戦前、敦賀は交通の要所であり大陸につながる玄関口として栄えていましたから、祖父のように行動力とベンチャー精神にあふれた若者が生まれ、活躍する風土がもともとあったのだと思います。
    そして祖父は、20名の園児と2人の保母さん(保育士)で幼稚園をスタートしました。祖父の熱意が通じて園児は年々増えていき、1期生が卒業する頃には百名近くになっていました。ただ、当時は日本の幼児教育のれいめいでしたから、幼児向け教材がないんです。
    そのため、お寺の土蔵や本堂裏の物置を作業場に、越前えちぜん和紙を使った折り紙や工作用品など、自分たちで教材づくりを始めたところ、次第に近隣の園から「売ってほしい」という依頼が舞い込むようになった。これが当社の創業の原点になります。

    ――必要に迫られて自前で始めた教材づくりが事業へと発展していったと。

    また久留島氏の早蕨幼稚園の卒園証書には、子どもの守り神とされる「いぬはり」の図柄がいくつも並んでおり、その中心に「桃太郎」の絵が描かれていました。
    久留島氏は自身の幼児教育を「桃太郎主義」と言っていましたが、要するに、「桃太郎の犬やきじ、猿のように、子どもたちそれぞれの個性を大切し、お互いに信じ合い、助け合い、違いを認め合っていく」教育を目指すということです。
    その「桃太郎主義」に共鳴した祖父は、早翠幼稚園の教育にも取り入れていくと共に、久留島氏のもとを訪ねて「犬張子」の図柄を頂戴し、当社の社章として採用するんです。犬張子の社章は、創業者の精神を忘れないために、いまも変わらず使用しています。
    後ほど詳しく触れますけれども、当社がもともとの保育教材事業以外に、公園や公共施設の空間デザイン、コンサルティングといった多様な分野に挑戦してきたのは、創業者のDNAがいまに生きているからです。「桃太郎主義」についても、建築家やデザイナーなど、社内外の多様な人材が持てる能力を発揮し、お互いに協力し合うことを大事にする現在の社風にしっかり根づいています。
    やはり企業の永続には、創業の精神を決して忘れず実践し続けることが非常に重要だと思います。

    ジャクエツ代表取締役

    徳本達郎

    とくもと・たつろう

    昭和38年福井県生まれ。61年3月佛教大学文学部卒、同年4月株式会社若越(現・ジャクエツ)入社。平成16年専務取締役などを経て、18年9月より現職。