2022年4月号
特集
山上 山また山
インタビュー
  • 茶道裏千家第15代・前家元千 玄室

数え100歳、
生涯現役を生きる

茶道裏千家前家元の千 玄室氏は2022年数えで100歳を迎えられた。70年以上、国内外で茶道の普及を続けるその精進努力には、いささかの衰えもない。その根底にあるのは、日本の未来のために身を捧げ沖縄の海で散華していった戦友たちの思いである。数多くの人生の山坂を乗り越えてこられた氏に、いまの心境と共に、これまでの歩みを語っていただいた。

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いまも変わらぬ生活スタイル

——千先生は2022年、数えで100歳を迎えられましたが、少しも年齢を感じさせませんね。ますますお若くなられているような……。

いや、もう1世紀を生きておりますから(笑)。昨日もここ裏千家の今日庵こんにちあん東京道場で催された初釜はつがまで、参加くださった皆様にご挨拶をさせていただきましたけれども、おかげさまで、少し耳が遠くなったくらいで、すこぶる元気ですよ。このコロナが一段落したら、また国内外を回りたいと思っています。
驚くでしょうが、こう見えましても私はいまも現役のアスリートなのです。

——現役のアスリート。

日本馬術連盟の現役の会長でもあり、時々、馬にも乗ります。私は幼い頃にあまり身体が丈夫ではありませんでした。それを心配した父に乗馬を勧められ、8歳から馬術を始めまして、それを今日に至るまで続けております。

——先生には1年ほど前にもインタビューをさせていただきましたが、生活スタイル(習慣)はその時と変わっていらっしゃいませんか?

変わっておりませんね。朝4時に起きて洗顔を済ますと、戦時中に海軍で鍛えられた体操を7分間行います。朝食までの1時間は坐禅を組み、段々頭がえてきたところで朝食をいただく。それから頼まれた原稿を書いたり、いろいろな仕事を片づけるのですが、私はパソコンも携帯電話も持ちませんので、すべて手書きなのです。漢字を思い出しながら文章を書くことも、いい頭の訓練になります。夜は7時を過ぎると飲み食いをせず、8時にはとこに就きます。
気をつけなくてはいけないのは姿勢ですね。いつも胸を張っていたらご飯をいただいても食道からぐに胃の中に収まるのです。幸い、若い頃から酒やタバコは体が受けつけません。

——その変わらぬ習慣がお元気の秘訣ひけつなのですね。

それに加えるなら、何と言ってもお茶でしょうね。「私の体には緑の血が流れている」と冗談でよく申し上げますが、カテキンがたくさん含まれた抹茶をたくさんいただいていることが元気に生きてこられた一番の理由だと思います。

——碩学せきがく・安岡正篤先生は「人間の精神は年と共に向上する」とおっしゃっていますが、その言葉を彷彿ほうふつさせる生き方ですね。

そう言っていただけるとありがたいですね。ただ、私は決して長生きをしたいと思って生きてきたわけではございません。
いま何かにつけて思い出すのは77年前の海軍時代のことです。亡き戦友たちの思いを担ったまま忸怩じくじたる思いで今日まで生きてまいりました。というか、彼らの力によって生かされてきたというのが正直な実感なのです。

——亡き戦友たちのおかげでいまがある。

はい。私はいま自分が少しでも怠惰たいだな気持ちになると自分に言い聞かせるのです。「あの頃のことを思い出せ」と。すると自然にグッと力が湧き、構え方が変わってくる。私は22歳の若さで生と死というものに向き合ってきました。だからこそ命の尊さというものについて人一倍敏感なのかもしれません。

茶道裏千家第15代・前家元

千 玄室

せん・げんしつ

大正12年京都府生まれ。昭和21年同志社大学法学部卒業後、米・ハワイ大学で修学。39年千利休居士15代家元を継承。平成14年長男に家元を譲座し、千玄室大宗匠を名乗る。文学博士、哲学博士。主な役職に外務省参与、ユネスコ親善大使、日本・国連親善大使、公益財団法人日本国際連合協会会長。文化勲章、レジオン・ドヌール・勲章オフィシエ、レジオン・ドヌール勲章コマンドール(フランス)、大功労十字章(ドイツ)、独立勲章第一級(UAE)等を受章。