2016年5月号
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  • 金星探査機「あかつき」衛星主任中村正人

金星探査機
「あかつき」の挑戦

その軌道投入成功までの軌跡

金星探査機「あかつき」が昨年(2015年)、金星の楕円軌道に投入された。日本の探査機が初めて地球以外の惑星の周回軌道に入るという快挙に日本中が湧いた。しかし、この計画は5年前の探査機打ち上げ後から困難を極めていた。主力エンジンが故障し、探査機が太陽の軌道に入ってしまったのだ。再投入は絶望的と見られる中、プロジェクトチームはいかに一丸となってミッションプロジェクトマネージャ・中村正人氏にその奇跡の復活の歩みを語っていただいた。

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日本初の惑星軌道への探査機投入

──昨年12月、金星探査機「あかつき」が金星周回軌道への投入に成功したという報せは、日本国内だけでなく海外からも大きな賞賛を浴びました。日本の探査機が地球以外の惑星の周回軌道に入ったのは、初めてのことだそうですね。

はい。2010年の打ち上げから5年がかかりましたが、ようやく金星の周回軌道に乗せることができました。
5年前の打ち上げで周回軌道投入に失敗した後、「あかつき」は損傷した状態のまま、ずっと太陽をめぐる軌道を回っていました。長期のフライトによる機体自体の疲弊も心配だったのですが、それをコンピュータで制御しながら何とか金星の周回軌道に乗せたわけです。

──お聞きしたところでは、それは極めて困難な挑戦だったそうですね。

主力エンジンが動かなくなった探査機を動かして軌道に乗せようとするわけですから、とても難しいミッションであることは確かでした。しかし、私を信じてついてきてくれたチームの仲間や多くの皆様の支えがあって乗り切り、ここまで来ることができたと思っています。
惑星の周回軌道投入に失敗した探査機が、再挑戦で成功したのは世界でも初めてのケースです。日本もこれでようやく惑星探査の分野で世界の仲間入りができたと思うと、感無量ですね。

──今回の成功によって、どのような世界が広がってくるとお考えですか。

「あかつき」の主な目的は金星の気象観測なんです。探査機に搭載されたカメラが最初に撮影した映像は、金星を覆う雲の様子がこれまでにないほどクリアに捉えられていて、この時は皆で思わず快哉を叫びました。
このように、日々新しく送られてくる金星のデータを、単に自分たちの研究に役立てるだけではなく、全世界に配信して世界の研究者に使っていただきたい。そうすれば、さらに宇宙や地球に対する可能性が開けてくるように思っています。

金星探査機「あかつき」衛星主任

中村正人

なかむら・まさと

昭和34年生まれ。57年東京大学理学部地球物理学科卒業。62年東京大学理学系研究科地球物理学専攻博士課程修了。ドイツのマックスプランク研究所研究員、旧文部省宇宙科学研究所助手、東京大学大学院理学系研究科助教授を経て、現在JAXA(宇宙航空研究開発機構)教授。金星探査機「あかつき」では開発段階から計画責任者を務めた。