2024年11月号
特集
命をみつめて生きる
インタビュー③
  • エアハース・インターナショナル社長木村利惠

人のために尽くす――
それが私の選ばれた道

国際霊柩送還の現場から

海外で亡くなった日本人の遺体を国内に搬送し、遺族の元に送り届けるプロフェッショナル集団がいる。国際霊柩送還士。国境を越え、亡くなった方の尊厳と遺族の思いに寄り添い続けている。同事業の専門会社を日本で初めて立ち上げた木村利惠さんに、道なき道を切り拓いてきた歩み、人の生死をみつめる中で掴んだ〝幸せな人生を送るヒント〟を伺った。

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9月4日(水)、羽田空港貨物ターミナル内にオフィスを構えるエアハース・インターナショナルを訪ねると、木村さんは笑顔で私たちを迎えてくださった。

誠意を尽くして寄り添うことが本当のグリーフワーク

──昨年(2023年)、木村さんがモデルとなった連続ドラマ『エンジェルフライト』が世界同時配信され、大きな話題を集めましたね。

私は関係各者に「ママ」「姉さん」って呼ばれているんですけど、ドラマを見た人から「ママそっくりだね」という声がたくさんありました。主演を務めた米倉涼子よねくらりょうこさんは「利惠さんが命を懸けている国際れいきゅうそうかんの仕事を100%以上振り絞ってやりたい」と、所作や話し方まで私に似せて演じてくれた。彼女の俳優魂が本作を輝かせたのではないでしょうか。

──1話1話、現場の緊張感が伝わる内容に感動いたしました。

実は、現場を忠実に再現したいという監督の意向に沿い、撮影中は裏監督のように監督の隣に張りついていました(笑)。ご遺体を処置するふでさばき一つとっても、それじゃだめ、この手はもっと丁寧にすべきだと指導する。私たちの仕事がリアルに伝わるよう、全面的に監修にたずさわりました。
そのあってか、過去に担当したご遺族から「うちのおじいちゃんが綺麗きれいに戻ってきた理由が分かった」とか、いままさに海外でご家族を亡くされた方には「あのドラマのモデルになった会社なら安心だね」といった有り難い反響をいただけましたね。

──国際霊柩送還という言葉は貴社の登録商標だと伺っています。

そうなんです。2003年に当社を設立した際に自ら考案したものなので、聞き覚えのない方も多いかもしれません。
国際霊柩送還とは、海外で亡くなった日本人のご遺体やご遺骨を日本に搬送、また日本で亡くなった外国人のご遺体やご遺骨を祖国に送り届ける仕事です。外務省が2020年度に行った調査では、海外で亡くなる日本人は年間400〜600人に上り、その約半数の送還を当社が請け負ってきました。
海外でご家族が亡くなった場合、相手国の葬儀社や日本領事館から当社の存在がご遺族に伝えられます。そして当社に依頼が入るや否や、長年にわたって構築してきた世界中のネットワークを駆使し、情報をき集めます。亡くなった国や搬送された病院はどこか、ご遺体は無事か。一刻も早く日本へ搬送するため、必要書類の作成や行政届出書類の翻訳、搬送状況の管理などを一括して行っています。

──まさに時間との闘いですね。

ええ。時差のある相手国の担当者から深夜もお構いなしに連絡が入ってくるので、一報が入って3、4日は徹夜も覚悟です。
そうした手続きを進める一方、何より欠かせないのが、ご遺族の心の支えになること。ご遺族は最愛の人の訃報を突然聞かされ、ギリギリの精神状態に陥っています。だから毎晩毎晩電話を掛けては、「ちゃんとご飯食べなきゃダメよ」「泣きたかったら泣けばいい」と寄り添い続ける。要は、親戚のおばちゃんになっちゃうわけ(笑)。
そうやって自然体で接していると安心するのか、次第に笑顔を取り戻し、亡くなったご家族の話をしてくれるようになる。ご遺体が搬送される頃には、「お帰り」と出迎える心の準備が整うんです。

──ご遺族の心のケアに徹する。

先日、唯一の家族だったおじいさんをフィリピンで亡くした孫娘を担当したのですが、つらい思いをしているだろうに終始毅然きぜんと振る舞っていました。葬儀を終えた日の夜、業務は終わったからこれ以上関わってはいけないと思いつつ、先方からメールが何度も入るので「私と話したいんだろうな」と電話したんです。するとわんわん泣き始めてね。「誰にも言えなかったけど、利惠さんと話したら初めて気持ちを出せた」と言って、夜中一時まで面倒を見ました。
私は頑張れとか、気休めの慰めは言いません。ましてや人間対人間ですから、学術的な知識は役に立たない。持って生まれたものでどう人を支え、誠実に寄り添うのか。社員にはよく「そこまでやります?」って言われるけど、誠意を尽くして接することが本当のグリーフワークだと思っています。

エアハース・インターナショナル社長

木村利惠

きむら・りえ

1961年東京都生まれ。勤務先の葬儀社で国際霊柩送還業を学ぶ。2003年日本初の国際霊柩送還専門会社となるアムズコーポレーション(現:エアハース・インターナショナル)を設立。2012年エアハース・インターナショナルを題材とした佐々涼子氏のノンフィクション『エンジェルフライト:国際霊柩送還士』(集英社)が出版され、開高健ノンフィクション賞を受賞。年間平均250体ほどの遺体・遺骨の送還に携わっている。