2025年9月号
特集
人生は挑戦なり
対談
  • 北品川クリニック・予防医学センター所長築山 節
  • 脳科学者西 剛志

健康長寿への挑戦

脳はいくつになっても成長できる

日本は世界有数の長寿国だが、平均寿命と元気に生活できる健康寿命との間にはまだ隔たりがある。高次脳機能外来で脳疾患の患者を数多く社会復帰へ導いてきた築山節氏と、脳科学の知見に基づき人の才能を引き出す活動に取り組んでいる西剛志氏に、いくつになっても脳を成長させ、真の健康長寿を実現する道について語り合っていただいた。

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    脳は使わなければ衰える

    西 きょうはよろしくお願いします。私は20年近く前から、脳科学を活用して企業や個人のパフォーマンスをアップさせる活動を続けてきましたが、築山先生の脳に関するご著書はよく拝読してきました。お目にかかれてとても嬉しく思います。

    築山 こちらこそ、よろしくお願いします。気がつけば、私ももう50年医者をやっていまして、75歳の後期高齢者になってしまいました(笑)。いまは産業医として毎週月曜から土曜までいろんな会社を訪問して、働く方々の健康管理を支援していますが、本を書くようになったのは、東京の第三北品川病院で高次脳機能外来を立ち上げてからです。

    (*編集部註:築山氏はその後北品川クリニックに移籍したため、現在新患は受け付けていません)

    私はもともと大学病院で脳外科医として活動していたのですが、教授の指示で東京の第三北品川病院の脳外科部長を務めることになりましてね。大学病院の時は分業制で、手術をした後の患者さんは外来の先生が診ていたのですが、第三北品川病院では、手術後もずっと自分が患者さんを診ることになりました。すると、手術がどんなに完璧でも、なぜかボケてしまう患者さんがいる。そこで、患者さんの脳を元の元気な状態に戻すための外来を立ち上げました。それが高次脳機能外来です。1992年、42歳の時でした。

    西 事故や病気で損傷した脳の機能回復を目指されたわけですね。

    築山 ええ。そして、そこで得た知見を本に書いたわけです。きょうは西先生のお話も伺いながらご紹介していきますが、基本的に脳というのは使わなければ衰えるということです。

    西 確かにおっしゃる通りです。

    築山 ところが、脳の手術をした患者さんのご家族というのは、亡くなることも覚悟していた大切な身内が無事帰ってくるので、ものすごく大事にするんです。そのため、患者さんはとても楽な生活に甘んじてしまって、いつまでも社会復帰できない。
    しかし、高次脳機能外来で脳機能が回復するための指導をしっかり続けていくと、患者さんはまた元気に会社へ出社して、上司や同僚とちゃんと仕事の話をして、お客さんの前で立派なプレゼンができるまでになるわけです。

    北品川クリニック・予防医学センター所長

    築山 節

    つきやま・たかし

    昭和25年愛知県生まれ。日本大学大学院医学研究科卒業。埼玉県立小児医療センター脳神経外科医長、公益財団法人河野臨牀医学研究所附属第三北品川病院長、同財団理事長を経て現職。医学博士。脳神経外科専門医として数多くの診断治療に携わり、平成4年脳疾患後の脳機能回復を図る高次脳機能外来を開設。著書に『脳が冴える15の習慣』『脳を守る、たった1つの習慣』(共にNHK出版)『一生脳が冴える歩き方』(宝島社)など。

    難病を通じて気づいたこと

    築山 西先生は、どのような形で企業や個人の方々の支援をなさっているのですか。

    西 仕事や人生が上手うまくいく人の脳の仕組みを研究して、そこで得たノウハウを提供しています。これまで3万人以上の方々をサポートしてきました。
    もともとは遺伝子を研究する科学者だったんですけど、30歳の時に突然難病を宣告されて、3年半くらい闘病生活を余儀なくされました。日本に1,100人しかいない自己免疫疾患で、原因も治療法も分からないんです。40℃を超える高熱や関節痛に悩まされて、免疫抑制剤で何とか症状を抑えながら生活を続けていました。
    病気になったのは結婚3か月目で、私は妻に迷惑をかけたくないと思って離婚も真剣に考えました。ところが妻は、「きっと治るよ」と、そんな私の手を握りながら励まし続けてくれたんです。
    当時身を置いていた研究の世界というのは、論文作成が1日でも遅れると他の人に実績を奪われてしまうような非常に厳しい競争社会で、私の心もずいぶんすさんでいました。けれども、一所懸命に看病を続けてくれる妻のおかげで、人生で本当に大切なものは何かということに初めて気づかされたんです。それまでの私は外側のものばかり追いかけていましたが、身近な人との心の触れ合いの尊さを実感しましてね。妻のためにも絶対に病気を治そうと決心して、自分の病気の研究を始めたんです。

    築山 それは素晴らしい。

    西 そうして3年経った頃に出た論文で、免疫の病気は脳が関係していることを知りました。要は、免疫を壊す原因はストレスだと。確かに、それまでの自分は完璧主義で、自分で自分を追い詰めるストレスフルな性格でした。これを改善しなければならないと考えて、脳や心理学の研究を始めて実践してみたところ、半年後に免疫の病気がかんかいしたんです。

    築山 具体的にはどんなことをなさったのですか。

    西 一番の気づきは、自分の言葉から受ける影響の大きさでした。
    私たちは日々心の中で自分に様々な問いかけをしていて、どんな問いかけをするかによって、返ってくる答えも違ってくるんです。当時の私は他人と比べては、どうして自分にはできないんだろうと自分をしていました。それを、自分がさらに成長していくにはどうすればよいだろうといった、プラスの答えが返ってくるような問いかけに変えていったんです。
    そうすると、できていることや成長していることに光を当てられ、自分をだんだん認めることができるようになってきました。それに伴ってストレスが緩和されて、病気も寛解したのだと思います。

    脳科学者

    西 剛志

    にし・たけゆき

    昭和50年宮崎県生まれ。東京工業大学大学院生命情報専攻卒業。博士号を取得後、特許庁を経て、平成20年うまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。企業や個人を対象に才能を引き出す方法を提供。著書に『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』(アスコム)『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える「やりたいこと」の見つけ方』(PHP研究所)『脳科学的に正しい一流の子育てQ&A』(ダイヤモンド社)など。