2021年1月号
特集
運命をひらく
インタビュー
  • 「はやぶさ2」プロジェクトマネージャ津田雄一
世界初のミッション達成に至った軌跡

かくして
成功の扉はひらかれた

小惑星探査機「はやぶさ2」。地球から約3億キロメートル彼方に位置する小惑星「リュウグウ」でのサンプルリターンミッションを果たし、地球帰還が目前に迫っている。世界初となる偉業を7つも成し遂げ、それにより太陽系の歴史や地球における生命の起源に迫ることができるという。約600人の多国籍のスペシャリストで構成される一大プロジェクトを5年半にわたり牽引してきたのが津田雄一氏だ。津田流のチームマネジメント手法やリーダーとしての心得から、成功の扉をひらく要諦を学ぶ。(©イラスト:池下章裕)

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地球帰還を目前にしていま心に抱く思い

——小惑星探査機「はやぶさ2」の地球帰還(12月6日予定)が目前に迫っています。いまの率直な心境をお聞かせください。

遂にここまで来てしまったという思いです。小惑星「リュウグウ」を探査する時にすごく大きなハードルがあったので、その山を越えた後の世界というのはもちろん計画はしていたものの、心情的に想像することはなかなかできませんでした。
徒然草つれづれぐさ』に出てくる「高名こうみょうの木登り」の逸話のように、地球に帰還するところまで気を抜かずにやらねばなと。大きな山を越えたがために、それを無駄にしないためにも最後までしっかりやっていかなきゃという思いを、いま新たにしているところです。

——油断することなく、緊張感を持ってプロジェクトメンバーと共に任務に当たられていると。

はい。このチームは本当に「リュウグウ」探査で成長したと
感じています。すごくいいチームワークで探査を乗り越えられたんですけれども、やはり地球帰還というのは探査とはまた違う難しさがあります。
往路の時は一般の方も含めて、「『リュウグウ』に本当に着くんですか」とか「イオンエンジンは大丈夫ですか」とかいろいろな心配をしていただけたんですが、帰路は皆安心してくれていまして(笑)。それは信頼があるという意味ではありがたいんですけど、往路と同じくらいやっぱり難しい。
しかも往路とはまったく違うのが、大気圏に突入させるところはワンチャンスであると。そこは絶対にミスができないんですね。最初の打ち上げの時とか「リュウグウ」に着陸する時は、何となればやり直しが利くわけです。今回は一度限りのチャンスなので、全く違った緊張感があります。

——初代「はやぶさ」は地球帰還の際に探査機ごと燃え尽き、大きな話題になりました。

「はやぶさ」一号機は満身創痍で、姿勢制御をするリアクションホイールが壊れていましたし、精密誘導に使う化学推進エンジンの燃料も空っぽでした。そういう状態にもかかわらず、唯一残っていたイオン(電気推進)エンジンを駆使して何とかリエントリー(サンプルを採取したカプセルを分離する)をやり通し、探査機ごと大気圏突入をして燃え尽きました。
で、「はやぶさ2」は幸い健康な状態にあるので、リエントリーした後、探査機本体は地球圏を離脱してまた宇宙空間に戻る予定です。「はやぶさ」1号機に比べてアドバンテージのある状態ですけど、我われとしては初めての経験になるので、決して安心せず、ゼロから見つめ直して運用計画を練っているところです。そういう意味で前回のようなドラマをつくらない、きちんと淡々と遂行していこうとチームには伝えています。

「はやぶさ2」プロジェクトマネージャ

津田雄一

つだ・ゆういち

1975年広島県生まれ。2003年東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。同年JAXA(宇宙航空研究開発機構)に入る。小惑星探査機「はやぶさ」の運用に関わると共に、ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」のサブプロジェクトマネージャを務め、世界初の宇宙太陽帆船技術実現に貢献。2010年より小惑星探査機「はやぶさ2」のプロジェクトエンジニアとして開発を主導し、2015年4月同プロジェクトマネージャに就任。