2020年6月号
特集
鞠躬尽力
対談
  • (左)日本ラグビーフットボール協会専務理事岩渕健輔
  • (右)日本卓球協会副会長前原正浩

世界で勝つ選手やチームを
いかに創り上げるか

卓球とラグビー、どちらもかつて世界の強豪国を相手に全く歯が立たない競技だったが、近年、驚異的な大躍進を遂げている。卓球は、上位を独占する中国勢を破り国際大会で優勝を飾る選手を男女共に次々と輩出。ラグビーも、2019年のW杯日本大会で史上初のベスト8進出を果たしたことは記憶に新しい。その輝かしい功績の裏には、10年、20年に及ぶ長い努力の道のりがあった。それぞれの競技で強化を担当してきた前原正浩氏と岩渕健輔氏が語り合う「改革と挑戦の軌跡」、そして「世界で勝つために必要なもの」——。

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卓球とラグビー強化の立役者

前原 岩渕さんとは前々回のラグビーW杯ワールドカップ(2015年イングランド大会)が終わった後、僕がディレクターを務めるJOC(日本オリンピック委員会)ナショナルコーチアカデミーに講師としてお招きしたのがご縁の始まりでしたね。
それから4~5回講習をお願いしていて、2019年日本で開催されたラグビーW杯の開会2週間前にもダメ元でお声掛けしたら、引き受けてくださって。あの時は図々しくすみません(笑)。

岩渕 いえいえ、日本のトップスポーツの監督やコーチの方の前でお話をさせていただくというのは非常に貴重な機会ですから、ありがたいなと思っています。
私は2012年から2017年まで、日本代表のGM(ゼネラルマネージャー)として強化を担当していたわけですけど、その時、他競技の皆さんがどういう強化をして成果を出したのか、あるいはうまくいかなかったのかについて勉強していました。
前原さんのお名前は随分前から存じ上げており、卓球の指導者としても第一人者ですし、国際卓球連盟の副会長も務められている。たぶん国際競技連盟で要職に就いていらっしゃる日本人ってそんなに多くないと思うんですね。
何よりも小学生の年代から選手を育成したり、ナショナルチームの強化はもちろん、皆から愛されるスポーツとして普及させたり。いまでこそいろんな競技で取り入れられていることを他に先駆けてやられてきたので、すごく参考にさせていただきました。当たり前のことをやっていても、当たり前の結果しか出ないですから。

前原 岩渕さんは現在、日本ラグビーフットボール協会専務理事を務めながら、セブンズ(7人制ラグビー)日本代表担当理事、男子セブンズ日本代表ヘッドコーチを兼任されていますよね。そういう方って他の競技であまり見たことがなくて、技術的な指導からチームマネジメント、コーチやスタッフとのコミュニケーションに至るまで、総合的な力がないと周りはついてこないと思うんですよ。
そういう意味で、僕より年齢は下ですけど、すごく感銘を受けています。

日本卓球協会副会長

前原正浩

まえはら・まさひろ

昭和28年東京都生まれ。小学生の時に卓球を始め、大学4年次に全日本選手権シングルス準優勝。51年明治大学卒業後、協和発酵工業(現・協和キリン)入社。翌年より日本代表として世界選手権出場。56年全日本選手権でシングルス・ダブルス共に優勝を飾る。60年男子日本代表監督に就任し、ソウル・アトランタ・シドニーの五輪3大会で指揮を執る。平成25年国際卓球連盟副会長。28年日本卓球協会副会長。

ベスト8進出はゴールではなくスタート

前原 それにしても、2019年のラグビーW杯では史上初のベスト8入りを果たし、日本中が歓喜に沸きましたね。僕も注目して見ていましたが、大会を通して得た手応えや課題は何ですか?

岩渕 正直、手応えと言えるようなことはまだまだないと思っています。どんな競技でもその国の中で文化として根づくようにならなければ世界のトップで戦い続けるのは難しい。
前々回のW杯で優勝経験のある南アフリカを破り、前回のW杯で強豪のアイルランドやスコットランドを倒してプール戦(一次リーグ)を全勝で1位通過し、初の決勝トーナメント進出を果たすなど、この8年間で確かに前向きな結果を出すことができました。これは20~30年前の先輩たちが一所懸命やってくださった歴史があるからであり、ラグビー協会の人間として代表チームの選手やスタッフには本当に感謝しています。
ただ、世界のトップ10にコンスタントに入っているわけでもないですし、W杯で優勝したわけでもありません。次回のW杯で簡単にベスト8に行けるかと言ったら、決してそんなことはなく、これまで以上に強化や努力をし続けなければ、ベスト8に入ることはもちろん、その先へ進むことはできないと思っています。

前原 ここからがスタートだと。

岩渕 ベスト8進出は、ゴールではなく通過点です。今回代表チームがやってくれたことを起点に、ラグビーを通じてもっともっと多くの方々に夢を与えられるようにしていきたいですね。

日本ラグビーフットボール協会専務理事

岩渕健輔

いわぶち・けんすけ

昭和50年東京都生まれ。小学生の時にラグビーを始め、大学在学中に日本代表選出。平成10年青山学院大学卒業後、神戸製鋼入社。ケンブリッジ大学に留学し、イングランドプレミアシップのサラセンズ入団。その後、セブンズ(7人制ラグビー)日本代表選手兼コーチなどを経て、24年日本代表ゼネラルマネージャー。30年男子セブンズ日本代表ヘッドコーチ。令和元年日本ラグビーフットボール協会専務理事。