2022年1月号
特集
人生、一誠に帰す
インタビュー③
  • 考古学者 大村幸弘

発掘一筋に歩き続けて

少年期から考古学に魅せられ、大学卒業後単身トルコに渡り、現在もなお周囲に麦畑しかないような遺跡で発掘調査を続ける大村幸弘氏。現地に根を下ろし、黙々と日々発掘に励むその歩みは実に半世紀に及ぶ。土と汗にまみれた研究は2017年、世界最古の人工鉄の発見として結実する。そこに至る誠実一筋に歩んできた道のりを大村氏に語っていただいた。

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    歴史を変えるほどの大発見

    ——大村先生は長年トルコの遺跡の発掘調査に従事されていますが、活動を始められて半世紀になるそうですね。

    はい。1972年にトルコのアンカラ大学に留学してしばらくして発掘のお手伝いを始めましたから、考えたらそのくらいになりますね。多くの考古学者は自国に戻って研究を続けますから、私のように現地に留まる人間は珍しいと思います。何しろ私は発掘ばかりをやってきた人間ですので、大変お恥ずかしながら、トルコ以外の横の世界が見え始めたのは、本当にここ数年なんです。

    ——いまはどういう発掘をされているのですか。

    現在はトルコの中央アナトリアにあるカマン・カレホユック遺跡で、4200年ぐらい前の地層から出てきた建物を掘っています。実は2015年にここから鉄と思われるかたまりが見つかりましてね。分析をしたところ、世界最古の鉄である可能性が出てきています。

    ——世界最古の鉄。

    はい。この地域では3500、3600年前、ヒッタイトという民族の帝国が栄えていました。ヒッタイト帝国は他国に先駆けて製鉄の技術を身につけ、鉄と軽戦車という絶対的な武器によって一大帝国を築き上げたというのが定説でした。ところが、カマンの発掘調査をしたところ、それ以前、3900年ぐらい前の地層から多くの人骨と鉄のはがねが出てきた。ということはヒッタイト以前に製鉄が始まっていた可能性があるわけです。
    さらにその下を掘っていくと、4200年ぐらい前の地層からも鉄が出てきました。掘っているうちに上の層にあった鉄が落ちてきたのではないかと考えましたが、一緒に出てきた炭化物を分析すると4200、4300年前のものであることが確認されました。
    この鉄の塊を分析した結果、人工鉄であることが分かりました。最古のものと言われていたヒッタイトの鉄より1000年近く古い時代に、人為的につくられた鉄があったことが明らかになったんです。

    ——大発見でしたね。

    いまはその鉄がどこからどのように運ばれてきたかという調査が行われていますが、そこが解明できると歴史が大きく変わることになるかもしれません。

    考古学者

    大村幸弘

    おおむら・さちひろ

    昭和21年岩手県生まれ。早稲田大学第一文学部西洋史科卒業後、トルコ政府給費留学生としてアンカラ大学言語・歴史・地理学部ヒッタイト学科に留学。中近東考古学科博士課程修了。帰国後、中近東文化センター勤務。60年よりトルコのカマン・カレホユック遺跡の発掘調査に従事。(公財)中近東文化センター附属アナトリア考古学研究所所長、中近東文化センター理事長、カマン・カレホユック遺跡調査隊長。著書に『鉄を生み出した帝国―ヒッタイト発掘』(NHKブックス)『トルコ』(山川出版社)など。