2025年2月号
特集
2050年の日本を考える
各界の識者に聞く③
  • グローバルウォータ・ジャパン代表吉村和就

水を制する者は
国家を制する

世界人口の増加などにより、水不足が年々深刻さを増している。水問題解決のため国内外で活動を続ける吉村和就氏に、日本が水資源に恵まれた豊かな国であり続けるための道をお話しいただいた。

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世界で展開される熾烈な水の争奪戦

私たちが普段、当たり前のように使っている水。このありがたさを十分に理解している人は、いまの日本では少数派かもしれません。

国連加盟国193か国のうち、自国で豊富な水源に恵まれている国はわずか21か国。さらに、蛇口から出てくる水を安全に、安心して飲める国は、日本を含めてたった11か国しかありません。

私たち日本人は、日々潤沢じゅんたくに水を使える環境にひたり切っているため、そのありがたみを忘れてしまいがちです。しかし世界ではいま、年々深刻化する水資源の不足によって、熾烈しれつな水の争奪戦が展開されており、私たちが使っている水も、いつ入手困難になってもおかしくない状況にあるのです。

地球の人口は増え続けていますが、地球上の水資源の総量は約14億立方キロメートルのまま変わることはなく、その97.5%は海水で、淡水は残りの2.5%。そのうち人類が経済的に使える淡水は僅か0.01%に過ぎません。現在80億人の人類が、この0.01%の水を奪い合いながら暮らしているのが世界の現実です。私も出席した「国連二〇二三水会議」でグテーレス国連事務総長は、現在80億人の人口の半分、40億人が30年以内に水の危機に直面すると警鐘を鳴らしています。

こうした水不足に拍車をかけているのが、深刻な水質汚染です。長らく問題視されてきた工業廃水ばかりでなく、農業由来、すなわち農薬による汚染も拡大しています。加えて近年問題視されるようになったのが、マイクロプラスチックによる海洋汚染です。大量に投棄されるプラスチックごみが直接海を汚すばかりでなく、それを取り込んだ魚介類を食べることによる健康被害が懸念されているのです。

もう一つの大きなリスク要因が、気候変動です。ヨーロッパを流れるライン川では、渇水かっすいのため物資輸送の大型船が一時期運行できなくなりました。舟運しゅううんで比較的安価にまかなえていた物流を陸運に転換せざるを得なくなり、輸送コストが大幅に上昇してしまったのです。

また、温暖化に伴う海面上昇によって、エジプトのナイル川では地中海の塩水がピラミッドの辺りまでじょうして、国の農業を支える流域の小麦農家に大打撃をもたらしています。インドネシアの首都ジャカルタでは、地下水に塩水が入って使えなくなり、首都の移転まで余儀なくされています。

日本でも、2018年夏季に信濃川で11キロ上流まで塩水が遡上したことがあります。日本の水道は、主に河川から引いた水を浄水場に集めて処理し、供給しているため、今後塩水遡上がさらに深刻化すれば、水道水の供給に大きな支障を来すようになるでしょう。

グローバルウォータ・ジャパン代表

吉村和就

よしむら・かずなり

昭和23年秋田県生まれ。大学卒業後、企業勤務を経て、平成10年国連ニューヨーク本部、経済社会局・環境審議官に就任。17年グローバルウォータ・ジャパン設立、代表に就任。著書に『水ビジネス―110兆円水市場の攻防』(角川書店)『図解入門業界研究 最新 水ビジネスの動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)など多数。