2022年10月号
特集
生き方の法則
インタビュー②
  • 元格闘家三﨑和雄

日本人は強いんです!

総合格闘技のPRIDEウェルター級チャンピオンとして世界の強豪と数々の激闘を繰り広げ、その不屈の姿勢を通して多くの人々に感動を与えてきた三﨑和雄氏。現役引退後は、地元の千葉県香取市で道場を開き、主に子供たちを対象に武道や農業を通じた人間教育に力を尽くしている。並々ならぬ覚悟と努力によって格闘家としての道を開いてきた三﨑氏に、自らの人生、闘いの中から掴んだ「生き方の法則」、そして自らの使命について語っていただいた(写真:創建は神武天皇の御代18年と伝えられる香取神宮拝殿の前で)。

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武道と農業で子供たちに生きる力を

——三﨑さんは格闘家としてご活躍され、引退後も武道・農業を教える道場を主宰するなど、幅広い活動に取り組まれていますね。

私はもともと総合格闘技のリングで約12年闘っていたのですが、2012年に現役を引退してからは、「先人から受け継いだ大切なメッセージを後世に伝え残す」ことを自らの使命とし、様々な活動に取り組んできました。
その1つとして故郷の千葉県香取かとり市、茨城県で2つの道場を主宰しておりまして、主に子供たちを対象に武道と農業を通じて生きることの大切さを伝えています。千葉の道場は武の神様・香取神宮のお名前をお借りして「香取道場」、茨城の道場は同じく武の神様である鹿島かしま神宮のお名前をお借りして「鹿島道場」と名づけました。

——具体的に子供たちにどのようなことを伝えているのですか。

武道は柔道を中心に教えているのですが、子供たちには「自らの痛みを知ることで、人の痛みを知り、優しい人間になってほしい」といつも伝えています。いま社会がどんどんデジタル化、バーチャル化している中で、痛みを感じる機会が少なくなっている、自分が直接見て触れたものを表現する機会が失われていっているように思うんです。例えば、ゲームでいかに人を斬っても、ものを壊しても、プレーしている人が痛みを感じることはありませんよね。
そういうところに、親が子を殺す、子が親を殺すといった凄惨せいさんな事件が毎日のように起こっている要因があるように思うのです。その点、格闘技、武道は実際に自分も痛い思いをしますから、「こうしたら相手も痛いだろうな」と、人の痛みを知ることができ、そこから相手を思いやる優しい心が生まれ、また育まれていくんです。
ですから、武道は優しさを学ぶ道であると私は捉えています。

——武道は優しさを学ぶ道。

農業も同じで、子供たちに裸足はだし田圃たんぼに入って苗を植えてもらう。収穫期に鎌を持って稲を刈ってもらう。先人たちがそうしてきたように、自然と触れ合うことで自分の命、人間が生きるということを実感してもらうんです。
ただ、私が本当に子供たちに伝えたいのは、これから20年、30年先、食糧やエネルギー問題を含めて、日本が大変な危機の時代を迎えた時に、一人ひとりが自分で状況を判断する、たくましく生き抜く力を養ってほしいということなんです。武道と農業を通じて、優しさと命の大切さを知った大人になってくれれば、そうした時代でも生き抜いていけるはずです。
私自身、香取神宮、香取様のお膝元で生をいただき、大自然の中ではぐくまれ、格闘技に出合って生かされてきました。そこから学んだ人間の本質、生きる力を後進に伝え、またその子たちが次の世代に伝えていく。そういう循環をつくることでよりよい日本のために貢献していきたい。その思いで子供たちに向き合っているんです。

元格闘家

三﨑和雄

みさき・かずお

昭和51年千葉県生まれ。平成元年小見川中学校入学後、柔道を始める。7年東京学館高等学校卒業後、総合格闘家を目指し、プロデビュー。12年全日本異種格闘技大会優勝。13年パンクラスネオブラッドトーナメント優勝。18年PRIDEウェルター級グランプリ優勝。24年現役引退。現在は自らの道場指導を通して、「生きる力」を伝えている。著書に『「覚悟思考」が結果を出す』(日本文芸社)。