2019年4月号
特集
運と徳
  • SBIホールディングス社長北尾吉孝

安岡正篤に学ぶ
運と徳の高め方

古の聖賢の教えをもとに、人の生きる道を説いた碩学・安岡正篤師。その教えはいまなお多くの人に貴重な示唆を与え続けている。運と徳──この一見掴み所のない人生の重要テーマについて、安岡師はいかなる教えを残しているのだろうか。安岡教学を通じて人生と経営を切り拓いてきた北尾吉孝氏に伺った。

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リーダーに求められる倫理的価値観

私が率いるSBIグループの経営理念には、「正しい倫理的価値観を持つ」という項目を筆頭に設け、次の一文を掲げています。

「『法律に触れないか』、『儲かるか』ではなく、それをすることが社会正義に照らして正しいかどうかを判断基準として事業を行う」

正しい倫理的価値観を持たずして行う事業は、一時的にはうまくいっても、決して長続きすることはないでしょう。会社というのは、ただ利益を上げればよいというものではなく、世のため人のために存在するべきだというのが私の信念です。

私がこうした倫理的価値観をはぐくむ上で非常に大きな影響を受けたのが、安岡正篤まさひろ先生です。

安岡先生は、古今東西の学問思想に通じた碩学せきがくであり、その卓越した見識、学識を頼り、総理大臣も教えをうたことから、歴代総理の指南番しなんばんともうたわれました。終戦の詔勅しょうちょくの草案にも関わり、日本の政治の歩みにも深く関わってこられたばかりでなく、有力な財界人も数多く師事したことで知られています。また、金鶏きんけい学院や日本農士学校、全国師友しゆう協会を設立して東洋思想の普及に尽力され、その教えはいまなお多くの人に影響を与え続けています。

私はあいにく謦咳けいがいに接することはかないませんでしたが、ご著書を通じてその教えを学んできました。

自らを知って初めて大きな仕事ができること、よき師と巡り合うことが人間的成長を促すこと、事業を成功させるためには「機」を逃してはならないこと、出処進退のあり方がその人の人生を決めること等々、いまでは私の信念となっているこうした考え方の大本を辿たどると、安岡先生の教えに行き着くのです。

昨年、致知出版社から安岡先生の選集が発刊され大変話題になっているそうですが、とりわけ若い時代にこうした優れた思想に触れることは、運命を大きく開花させる上でとても重要なことだと私は思います。

SBIホールディングス社長

北尾吉孝

きたお・よしたか

昭和26年兵庫県生まれ。49年慶應義塾大学経済学部卒業。同年野村證券入社。53年英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村企業情報取締役、野村證券事業法人三部長など歴任。平成7年孫正義氏の招聘によりソフトバンク入社、常務取締役に就任。現在SBIホールディングス代表取締役社長。著書に『何のために働くのか』『君子を目指せ小人になるな』(ともに致知出版社)など多数。