追悼

追悼・越智直正氏

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    去る令和4年1月6日、タビオ会長の越智直正氏が、交通事故でお亡くなりになりました。 享年82。1週間後には、弊社主催の「後継者育成塾」にてご講話を賜る予定でした。突然の訃報に言葉もありません。

    越智氏は、昭和14年愛媛県生まれ。父親の遺言を受け、15歳で故郷を離れて大阪の靴下問屋へ丁稚奉公に入りました。 43年、28歳で独立し、創業したダンソックス(現・タビオ)を、一代で靴下業界トップクラスへと躍進させ、「靴下屋」をはじめとする店舗を、国内はもとより海外でも展開する一流企業へと育て上げた立志伝中の人です。

    『致知』には8度にもわたりご登場いただくと共に、弊社より書籍『男児志を立つ』『仕事に生かす「孫子」』を上梓され、またセミナーにも度々ご登壇いただき、実体験を通じて確立された独自の人生哲学、経営信条を、親しみやすい語り口で惜しみなく披露してくださいました。

    熾烈を極めた13年間の丁稚奉公を耐え、万年不況産業といわれた靴下業界で目覚ましい成功を遂げた越智氏を支えたのが、『孫子』をはじめとする古典の教えでした。

    「ただの商売人になりたくなかったら勉強しろ。中国古典を読め」

    と恩師から勧められ、古本屋で買い求めた『孫子』は仕事の合間に全文を諳んじるまで読み込んだといいます。知識や教養を身につけるためでなく、活路求めて貪り読んだ古典の教えは、窮地に陥る度に救いの手を差し伸べてくれました。「古典は人生の応援歌」が越智氏の実感でした。

    独立の経緯も印象的でした。 仕えていた大将から誤解を受け、やむなく奉公先を後にすることになったため、準備期間も開業資金もほとんどない状態からのスタート。ともすれば挫けそうになる心を奮い立たせるため、 繰り返し口ずさんだのが孟子の言葉でした。

    「天の将に大任を是の人に降さんとするや、必ず先ずその心志を苦しめ、その筋骨を労せしめ、その体膚を餓えしめ、その身行を空乏せしめ、その為さんとする所を仏乱せしむ。心を動かし性を忍ばせ、その能くせざる所を増益せしむる所以なり」(天がある人に重大な任務を与えようとする時には、その人を成長させるため様々な試練を与えるものだという教え)

    試練を見事に乗り越えた越智氏は、成功を果たした後も、大将こそ自分を育ててくれた恩人との感謝の念を失うことなく、相手が面会に応じないにも拘らず毎年正月の挨拶に通い続けたといいます。

    数々のご体験談を通じて、有意義な教訓を与えてくださった越智直正氏。生前のご厚情に心より感謝申し上げ、謹んでご冥福をお祈り申し上げます。