2024年12月号
特集
生き方のヒント
インタビュー①
  • 古流越後流居合抜刀術宗匠、剣道教士七段馬場欽司

不老の剣を求めて、
歩み続ける

風光明媚な長崎県五島列島で、先祖代々剣の道に携わる武士の家柄に生まれ、幼少期より文武両道の厳しい修行を重ねてきた馬場欽司氏。80歳を迎えるいまもなお、終わりなき自己修養、後進の育成に情熱を傾ける馬場氏に、師の教えを交え、歳を重ねるごとに円熟味を増す〝不老の剣〟の極意、最後まで成長し続ける要訣をお話しいただいた。

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代々の流儀を後世に引き継ぐ

——馬場さんは剣の道一筋に80年歩み、いまもなお剣道を通じた人づくり、日本文化の伝承に情熱を傾けておられるそうですね。

もともと馬場家は、源平合戦で落ち延びた平家を追って長崎の五島まで至り、同地に定住した武士の家柄でしてね。様々な武芸と共に越後流という古流のあいばっとうじゅつを代々伝承してきました。
度重なる戦乱や社会変化を乗り越え、ご先祖様が何百年と守り伝えてきた越後流をわずかでもいいから後世に残したい。その思いで、剣道を指導してきた教え子の中から、真面目で人間性の立派な人物を選んで説得し、毎月、近所の公民館(茨城県)をお借りして稽古会に参加してもらっているのです。

——越後流の稽古けいこ会には、何名くらい参加されているのですか。

8名ほどですが、「馬場先生が元気なうちに学びたい」と通ってくる共に教士七段の教え子もいますから、頼もしいですよ。
ただ、稽古会は真剣で行うのですが、やはり剣道の高段者でも真剣を扱ったことがない人が多いのです。試しに新聞や真竹をらせてみるのですが、斬れない。「自分のひげれても、新聞は斬れんのか!」としっげきれいしています(笑)。

——ああ、剣道の高段者でも。

というのは、いまの剣道は斬るというより、手の先でぽんと叩く、打つんです。これではいくら剣道の稽古をしても、真剣で斬れるはずがありません。もっといえば、日本刀の「しのぎ」を使って相手の武器をぱぱっと払い落としたり、巻いたりするような多様な戦い方、味のある技もできない。
最近の剣道の試合を見ても、相手の隙を狙って飛び込んでいって一発叩く。当たらなければ、打たれまいと懐に潜り込み、そのままつばり合いへと移行する、その繰り返し。鍔迫り合いにしても、真剣の感覚からすればあり得ないことで、鍔迫り合いになった瞬間にすぐ次の技を出していなければならず、出したら今度は足さばき、体捌き……という問題が生じます。
原点である日本刀から出発すれば、現代の剣道についていろいろなことが見えてくるはずです。
ですから、日本刀による剣術と剣道は分かれてはいけないもので、両方稽古するのが本来のあり方だと思うのです。稽古会を通じ、そのようなこともしっかり次世代に伝えていきたいと思っています。

古流越後流居合抜刀術宗匠、剣道教士七段

馬場欽司

ばば・きんじ

昭和19年長崎県福江市(現・五島市)生まれ。長崎県立五島高校、国士舘大学体育学部卒。関東、全日本学生優勝大会で2回優勝、全国教職員大会で2回、国体・全日本都道府県対抗で優勝、全国教職員大会にて東京チームの監督を務め優勝するなど実績を残す。海外の剣道指導にも尽力。ブラジル・サンパウロ議会議長賞、ブラジル・サンパウロ議会賞授与。平成27年国士舘大学名誉教授・感謝状受賞。古流越後流居合抜刀術宗匠。剣道教士七段。著書に『剣道藝術論』『続 剣道藝術論』(共に体育とスポーツ出版社)『伝統の技術』(剣道日本社)。