2024年11月号
特集
命をみつめて生きる
インタビュー②
  • 助産院いのちね代表理事岡野眞規代

約4,000人の赤ちゃんを
取り上げて気づいた
「命の真実」

鳥取県智頭町、自然豊かな山陰の里山に〝命の根っこ〟に寄り添うコミュニティが存在する。助産院、デイサービス、診療所、温浴施設、宿泊施設、カフェを展開する「いのちね」。代表を務める岡野眞規代さんは、日本における自然分娩の神様と称される吉村正氏の薫陶を受け、助産師として50年近くにわたりこれまで約4,000人の赤ちゃんのお産に携わってきた。その中で気づいた命の真実、命と向き合う上で大切なこと、幸せに生きる秘訣とは何か。

この記事は約15分でお読みいただけます

9月10日(火)、東京羽田から飛行機とバスと電車を乗り継いで約2時間半、鳥取県ちょうやまさと集落にある助産院いのちねを訪ねた。

お産から看取りまで命の根っこに寄り添う

──豊かな自然に囲まれていて、心癒やされる素敵な場所ですね。

そう言っていただけて何よりです。きょうはわざわざ遠方から山陰の里山にようこそお越しくださいました。私、『致知』の読者なので、『致知』から取材を受けるなんて本当に神様の贈り物だなと思っています。

──ありがとうございます。

この建物は長年誰も住んでいなくて廃墟のようになっていた築百年の古民家をリノベーションしたんです。まきストーブ、縁側といった古きよきものを残しながら新しいものとうまく調和させて、心地よい空間をつくってもらいました。すぐ近くを流れる一級河川の千代川せんだいがわのせせらぎが聞こえる和室や食卓でリラックスして過ごしながら、産前・産後のケアを受けられるようにしています。
敷地内にはこの「助産院いのちね」の他に、高齢者向けの「デイサービスやすらぎ」、内科・訪問診療の「あわひ診療所」、温浴施設の「せせらぎの湯」、宿泊施設の「こもれびの宿」、カフェの「一汁一菜むすひ」があり、医師や助産師、生活相談員、事務員2名の計5名のスタッフと日々運営しています。
命は生と死の循環の中で生きているという考えのもと、お産から看取りまで命の根っこに丁寧に寄り添って、命を迎え、見守り合い、送る場所でありたい。人や自然との関わりの中で自分と向き合い、多世代との交流を通じて生命力をはぐくむ場所でありたい。そんな世界を目指しているんです。

──命の根っこに寄り添うという意味で「いのちね」なのですね。

人口約6,200人の過疎地ですから、訪れる方はポツポツという感じで経営は厳しいですが、利用者さんの口コミで少しずつ増えてきて、8月14日にここの庭で「いのちね夕涼み会」を実施した際は150人ほどの方が来てくださいました。一人ひとりの方に喜んでもらっていることがすごく励みになっています。2020年にオープンして5年目になりますけど、ようやく光が見えてきたという感じですね。妊婦さんとそのご家族、地域の高齢者はもちろん、県外の観光客や医療従事者などにもお越しいただいています。

助産院いのちね代表理事

岡野眞規代

おかの・まきよ

大阪府生まれ。昭和50年大阪市立助産婦学院卒業後、助産師としてのスタートを切る。公立病院に14年間勤務し、民間病院の婦長を経て、自然分娩のパイオニアとして知られる吉村正氏との出逢いを機に、平成11年より愛知県岡崎市にある吉村医院「お産の家」婦長を5年間務める。病院出産と自然出産合わせて約4,000名のお産に立ち会う。28年鳥取県智頭町に移住し、令和2年「いのちね」を開設。著書に『メクルメクいのちの秘密』(地湧社)など。