2018年6月号
特集
父と子
インタビュー①
  • 世界医師会会長、日本医師会会長横倉義武

地域医療に生涯を捧げた
父の後ろ姿に教わる

約17万人の医師たちを率いる日本医師会会長の横倉義武氏が、昨年、日本人で3人目となる世界医師会会長に就任した。114カ国のリーダーとして日本の国民皆保険を世界に普及するという志に燃える横倉氏だが、その医師としての原点は、無医村の地域医療の振興に生涯を捧げた父親の後ろ姿にあった。

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国民皆保険を世界に

——昨年(2017年)10月の世界医師会会長就任以来、席の暖まることのないご多忙な日々を送られていますね。

ええ。実は一昨日も、WHO(世界保健機関)本部があるスイスのジュネーブから帰国したばかりなんです。
WHOと世界医師会はこれまでも協力関係にありましたが、正式な覚書を結ぶには至っていませんでした。昨年(2017年)12月、WHOのテドロス・アダノム事務総長が来日された折、一緒に話をする中で覚書を取り交わすことをお約束し、今回、ジュネーブで調印式をしました。お互いの結びつきが強まったことで、これまで以上に世界の医療に貢献できると思っています。
私は2012年に日本医師会の会長となり、平日は東京の日本医師会で会議や来客対応、決済などに当たっていますが、世界医師会の会合で頻繁ひんぱんに海外に出向きます。国内にいる時でも週末には各地の医師会に顔を出しますし、地元・福岡に帰ってゆっくりできるのは日曜だけ。月曜の午前中は私の病院(みやま市高田町たかたまちのヨコクラ病院)にいて、それからすぐにまた上京するという生活を続けています。おかげでワンルームマンションにも随分馴染なじみましたよ(笑)。

——世界医師会会長になられるのは、日本人で3人目とか。

武見太郎先生、坪井栄孝えいたか先生以来です。坪井先生が任期を終えられて16、7年経つものですから、そろそろ日本から会長を出してはどうかという声がアジア各国から上がりまして、世界医師会の理事をしていた私が推挙いただいたわけです。
私自身にも、日本の優れた医療システムである国民皆保険をどうしても世界に広めたいという強い思いがありました。それに、高齢化が世界レベルで進んでいくことを思うと、長寿最先進国である日本の医療を伝えていく必要があるだろうと。そんな思いから立候補させていただいたんです。
実際、医療を必要とする人が、自分ができる負担の範囲内で適切な医療が受けられる国民皆保険は、日本が世界に誇るべきものです。国民の健康寿命を世界のトップレベルにまで押し上げたのも、この仕組みがあったからこそなんです。アフリカやアジアでは経済格差がそのまま健康格差につながっておりますから、日本にならおうという気持ちがとても強いんですね。

——日本の貢献が活動の柱でもあるわけですね。

もちろん、日本の医療にも様々な問題があります。いま私が最も強く感じているのは、かかりつけ医の重要性です。このまま高齢化や過疎化が進むと、従来の地域医療が機能しなくなる危険性があります。
国民の皆様にはかかりつけ医をしっかり持っていただき、一方、医師も患者さん一人ひとりに寄り添えるだけのかかりつけ医としての実力を身につけていく。その2つが上手く機能できてこそ、この厳しい時代を乗り越えていけると私は確信しているんです。

世界医師会会長、日本医師会会長

横倉義武

よこくら・よしたけ

昭和19年福岡県生まれ。44年久留米大学医学部卒業後、同大学病院に心臓血管外科医として勤務。西ドイツのミュンスター大学留学後、58年ヨコクラ病院に。福岡県医師会会長を経て平成22年第19代日本医師会会長(現在3期目)、29年114か国が加盟する第68代世界医師会会長に就任。