2021年6月号
特集
汝の足下を掘れ
そこに泉湧く
インタビュー③
  • 鹿児島県立屋久島高等学校元演劇部顧問上田美和

懸命に打ち込む先に
辿り着ける世界

赴任して3年目にして、廃部寸前だった屋久島高校演劇部を全国大会で優秀賞(2位)を受賞するまでに導いた顧問の上田美和先生。「頑張ることは格好悪い」という風潮が無きにしも非ずの昨今、一つの事に懸命に打ち込む尊さを正面から説く上田先生に、演劇への情熱、教育へ懸ける思いを語っていただいた。

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全国大会2位に輝いた作品に込めた思い

——上田先生は廃部寸前だった屋久島やくしま高校の演劇部を、全国2位に導かれたと伺いました。

2018年の全国高等学校演劇大会にて、『ジョン・デンバーへの手紙』という作品で優秀賞(2位)を受賞することができました。私自身もまさか賞を受賞し、このように注目を集めることになるとは思ってもいませんでした。
というのも、私は賞を取ることをゴールに指導してきたわけではないからです。高校の部活は教育活動の一環ですから、演劇部の顧問として、演劇の面白さや一所懸命努力することの素晴らしさを伝えることに重きを置いてきました。

——賞はあくまで結果だと。

ええ。結果を求めすぎると勝利至上主義になり、上位大会に進むために下手な生徒は除外し、上手な生徒ばかりを舞台に立たせてしまいがちです。そうすると、
本当に大切なものを見失ってしまう。そう考え、大会までの「過程」を大切にしてきた結果、全員の子供たちの魅力を引き出せ、2位に導けたのではないかと思います。全部員を舞台に上げるために心を砕いて脚本をつくり、1人も取りこぼさないように一丸となって練習を重ねてきました。

——『ジョン・デンバーへの手紙』はどのような作品ですか?

約40年前の実話を基にしています。屋久島はいまでこそ世界自然遺産に登録され厳重に保護されていますが、高度経済成長期には巨木の生産地として屋久杉がどんどん伐採ばっさいされ、屋久島が丸裸になる危機に瀕した時代がありました。地元住民を中心として多くの保護運動が起こり、その中のお1人に、当時屋久島高校の実習助手であった大山勇作先生がいらっしゃいます。まだ30代だった大山先生は募金活動などを通じて製作費をつのり、その惨状さんじょうを告発映画「屋久島からの報告」に収めて、1978年に発表しました。
映画の主題歌は「カントリー・ロード」など多くのヒット曲を生んだアメリカの人気歌手、ジョン・デンバー氏に依頼しています。デンバー氏は環境問題への意識が高く、手紙で島の窮状を訴え楽曲提供を願い出ると、通常1曲当たり100万円の使用料がかかるところを、無償で2曲も提供してくださったそうです。
そうして出来上がった映画は大きな反響を呼び、その他、地元団体の懸命な働きかけもあって、国による屋久杉伐採事業は打ち止めに。1993年には日本で初めての世界自然遺産に登録されました。

——屋久島にはそんな闘いの歴史があったのですね。

屋久島について調べる中でこの事実を知り、映画をつくられた大山先生に実際にお話を伺う中で、故郷の自然を守るために闘った方々の本気さと一所懸命さ、人の絆に強烈な印象を受け、この実話を作品にしようと考えたのです。

鹿児島県立屋久島高等学校元演劇部顧問

上田美和

うえだ・みわ

昭和47年鹿児島県生まれ。大学を卒業し、2年間都内の出版社に勤務後、地元に戻り国語科の教員に。平成13年鹿児島県立宮之城高校に勤務中、創作した演劇『トシドンの放課後』で九州大会優秀賞(2位)を受賞。28年屋久島高等学校に転任。30年『ジョン・デンバーへの手紙』で全国大会優秀賞、創作脚本賞をダブル受賞。令和3年鹿児島本土の鹿児島県立伊集院高等学校に転任。