2026年2月号
特集
先達に学ぶ
わが人生の先達⑤
  • 海上自衛隊前横須賀地方総監真殿知彦

言行一致の人
鈴木貫太郎

先の大戦で国家消滅の危機に瀕していた我が国を、終戦へと導いた鈴木貫太郎。その類い稀なる人間的力量は、いかにして養われたものだろうか。海上自衛隊の要職を歴任してきた真殿知彦氏に、自身が最も尊敬する人物として挙げる鈴木貫太郎の人間力の源についてお話しいただいた。

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    海上自衛隊前横須賀地方総監

    真殿知彦

    まどの・ともひこ

    昭和41年千葉県生まれ。平成元年防衛大学校を卒業後、海上自衛官に任官。14年に筑波大学大学院地域研究研究科修士課程を修了。その後、アジア太平洋安全保障研究センター、NATO国防大学の課程修了。海上自衛隊幹部学校長、海上幕僚副長、横須賀地方総監などを歴任。著書に『海軍兵学校長の言葉』『提督の決断』(共に三和書籍)など。

    言行一致を旨として

    「正直に 腹を立てずに
    たわまず励め」

    群馬県は前橋市立桃井もものい小学校の門前に、静かにたたずむ石碑。ごうしたのは、卒業生の鈴木かんろうです。

    鈴木は、連合艦隊司令長官や海軍軍令部長、じゅうちょうなどの重職を歴任し、終戦時の総理大臣を務めた人物として知られています。同校はこの石碑の言葉を、偉大な先達から贈られた教訓として、いまも大切に語り継いでいます。

    私は元々数学や物理が好きな理数系の人間でした。しかし、防衛大学校に入り、幹部自衛官を目指すようになってからは、歴史書や伝記を精力的に読み、優れた先達からリーダーのあり方を学ぶようになりました。そうした中で、とりわけ心をかれるようになったのが鈴木貫太郎でした。

    鈴木貫太郎という人物のすごさは、まず何と言っても、先の大戦で国家存亡の瀬戸際にあった我が国を終戦へ導いた決断力にあります。陸軍参謀本部、海軍軍令部が戦闘継続を強く主張し、国全体が本土決戦も辞さない空気に包まれていた中で戦争を終わらせた力量は、並大抵のものではありません。

    もう一つ素晴らしいと思うのは、自身の言葉と行動が常に一致していることです。鈴木は、二等巡洋じゅんよう艦「宗谷そうや」の艦長を務めていた時に乗艦していた士官候補生に示した「奉公十則」で「言行一致をむねとし議論より実践を先とすべし」と説いていますが、鈴木の人生はまさにこの言葉によって貫かれていると言っても過言ではないでしょう。冒頭の石碑の言葉もしかり。その信念の強さに、私は深い尊敬の念を抱くのです。