2021年9月号
特集
言葉は力
インタビュー②
  • 蜘蛛の糸理事長佐藤久男

誰もが生き抜く力を
持っている

1990年代に年間の自殺者が3万人を越え、いまなお2万人以上が自ら命を絶っている「自殺大国」日本。その中で、20年にわたって独自の自殺予防活動に取り組み、地元・秋田県の自殺者を減少に導いてきたのが、NPO法人「蜘蛛の糸」理事長の佐藤久男氏である。これまで7,000人以上の命の声に耳を傾けてきた佐藤氏に、自らも自殺の瀬戸際に追い込まれ、先人の言葉を支えに立ち直った体験を交えながら、共に支え合い、誰もが自分らしく幸せに生きる人生の要諦をお話しいただいた。

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全体の力で一人を助ける

——佐藤さんはNPO法人「蜘蛛 くもの糸」(秋田県)理事長として、20年にわたり自殺に悩む人々の相談に乗ってこられ、その独自の取り組みは「秋田モデル」として全国から大変注目を集めています。

「秋田モデル」とは何かというと、要は民間主導型の自殺予防モデルなんです。他県では主に行政がトップに立って自殺対策を行っているところが多いのですが、私たちは民間団体の活動に行政や様々な専門家がジョイントするという形になっているわけです。
その発想は全部現場から出てきたものです。私が20年前に「蜘蛛の糸」を一人で立ち上げて、自殺相談を始めた当初は、とにかく自殺に悩む方の話に耳を傾け、苦しみや悲しみに寄り添うということをやっていました。ただ、だんだん自分一人の経験や能力だけでは、すべての悩みに対応できないことに気づいていったんです。
例えば、 うつ病なら医師、倒産などの債務整理なら弁護士、生活保護なら行政の支援が必要になりますよね。そのように「自分一人ではできないことがある」「この人をどうしたら助けられるか」を常に考えて、実際に専門家や行政の担当者に相談者を つないでいくということを続けていったら、15年ほどかかりましたけど、次第に現在の「秋田モデル」と呼ばれるものができあがっていったんです。
いつ落下しても大丈夫なように空中ブランコの下に張り めぐらされたネットというか、一人の相談者を助けるために全体の力、いろいろな方の協力で張り巡らされた蜘蛛の巣のようなもの。それが「秋田モデル」だと思っています。
とにかく目の前の一人ひとりを助けて、幸せにしていくことによって自殺者を減らしていく。それを第一に活動してきたんです。

——素晴らしいモデルですね。

最近ようやくその完成形ができてきたという感を強くしています。いま「蜘蛛の糸」には、自殺に悩む人の声に耳を傾ける相談員が約25人いて、弁護士や臨床心理士、司法書士や社会福祉士、精神保健福祉士など様々な専門家、資格を持った人たちと密な連携を図り、迅速 じんそくかつ手厚く相談者に向き合い、支援していく体制が整っています。2020年の8月からは、LINEを活用した若者向けの相談も始めました。
事実、そうした民・学・官の連携によって、秋田県では自殺者がピーク時と比べて65%も減少したんです。コロナで雇用が不安定になり、全国的に自殺者が増えている中でも、秋田県はいまのところ横ばいで推移しています。

蜘蛛の糸理事長

佐藤久男

さとう・ひさお

昭和18年秋田県生まれ。44年、県職員を辞して不動産鑑定事務所に勤め、52年に独立。不動産情報センターや福祉・介護用品の専門店、建築事務所などの経営にあたっていたが、倒産により鬱病を発症。鬱病を克服したのち、知人の経営者の自殺を契機に、平成14年NPO法人「蜘蛛の糸」を設立する。倒産に伴う中小企業経営者とその家族の自殺予防活動に取り組み、これまでに7,000人以上の相談を受けてきた。著書に『死んではいけない―経営者の自殺防止最前線』(ゆいぽおと)『自殺防止の灯台論』(くまがい)がある。