2016年8月号
特集
思いを伝承する
インタビュー①
  • 国際少林寺流空手道連盟会長、錬心舘総本山宗家保 巖

100年先を思いては
人を育てる

人間形成の空手道場として、世界23か国に広がっている少林寺流空手道「錬心舘」。その起源はいまから61年前、鹿児島のたった6坪の道場に3名の高校生を迎えてのスタートだった。父親である開祖の思いを受け継ぎ、今日の発展を築いた第2代宗家・保巖氏に、いかにして一道を切り拓いてきたかについて伺った。

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60年の節目を迎え、初心に立ち戻る

──保さんが宗家を務める少林寺流空手道「錬心舘」は、日本国内のみならず、海外にも普及しているそうですね。

私の父である保勇が鹿児島の地に錬心舘を開設したのは、いまから61年前のことです。僅か6坪の小さな道場に3名の高校生が入門してきたことで、錬心舘の歴史は始まりました。現在では、欧米、中南米、アジア、北欧など、世界23か国で門下生が切磋琢磨し、心と技を鍛えております。

──ものすごい規模ですね。

昨年(2015年)、錬心舘は創立60周年の節目を迎えました。それを記念して、8月に第3回少林寺流国際親善空手道選手権大会を台湾で開催し、11月には鹿児島市で記念式典を挙行いたしました。なぜ台湾だったかといいますと、父が若い頃、武術に開眼した場所なのですね。その地を訪ねて、また新たな未来を創造する機会にしたい。そういう思いで台湾に決めました。

──ああ、原点に帰ると。

そうですね。「稽古とは一より習い十を知り、十よりかえるもとのその一」と言うように、初心を忘れてはならない。誰でも最初はすごく純粋な気持ちで取り掛かると思います。しかし、10年、20年と経った時、その純粋な気持ちを持続、またはより情熱を持っていることは簡単ではありません。
錬心舘も60年経って、以前からすれば大河になった分、流れに澱みが出ないとも限らない。初心の思い、純粋さ、情熱、そういったものに立ち戻るよい節目の年にしたいと強く考えました。
そういう意味で、錬心舘では毎年その年のテーマを漢字一字に込めておりますが、今年(2016年)のテーマは「礎」にいたしました。
私はこれまで世界に空手を広げることを意識的にやってまいりました。2000年に父が亡くなり、宗家を襲名した時はまだ10か国足らずでしたが、それ以降、海外普及を我が使命として、とりわけ力を入れて取り組んでまいりました。

──ここ16年で国際的になりましたね。

はい。そしていまは世界に広げていくことと同時に、改めて大事なことがあると感じております。それは目の前の一人ひとりのお弟子さんとの絆を大事にして、組織を100年後も存続させるための礎をしっかりと築いていくことです。
実は60周年の記念式典の時に、最初に入門した3名のうちの1名のお弟子さんが出席してくださいました。その方は60年前と全く変わらない純粋な思いを持っておられました。そういうお弟子さんをこれからも多く輩出していくために、高みを目指し、より足腰を強く鍛えていきたいと思います。

国際少林寺流空手道連盟会長、錬心舘総本山宗家

保 巖

たもつ・いわお

昭和23年鹿児島県生まれ。42年第1回少林寺流空手道全国大会優勝。同年フィリピンに渡航して以来、台湾、ドミニカ共和国など海外各国で空手道の指導、普及に当たる。平成12年6月宗家襲名。十段範士。国際少林寺流空手道連盟会長。