2026年3月号
特集
是の処即ち
是れ道場
対談
  • 第十七代常盤山部屋師匠常盤山太一
  • 第十七代常盤山部屋おかみモリムラルミコ

相撲部屋
親方とおかみの
「幸せ道場」

〝千年分の苦労〞を引き受けて

日本の国技であり、いつの時代も観衆を沸かせる大相撲。その中にあって並外れた苦労を重ねてきたのが、土俵の鬼と畏れられた横綱・初代若乃花に師事し、〝角界いい人ナンバーワン〟と慕われる常盤山太一親方。その常盤山部屋のおかみとして、夫や弟子たちを陰日向なく支えるモリムラルミコさんだ。相撲部屋運営を通じて苦楽を味わいつつ、自らを鍛え抜いたお二人の体験的人生論。

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    第十七代常盤山部屋師匠

    常盤山太一

    ときわやま・たいち

    昭和36年神奈川県生まれ。51年第45代横綱・初代若乃花が創設した二子山部屋に入門、三月場所で初土俵を踏む。四股名は隆三杉。56年一月場所で新十両、七月場所で初入幕を果たす。幕内在位71場所、優勝は十両、序二段で各1回。最高位は小結。平成7年現役引退。28年千賀ノ浦部屋師匠。令和3年より常盤山部屋師匠。8年3月で停年、湊川部屋付き参与となる。

    第十七代常盤山部屋おかみ

    モリムラルミコ

    もりむら・るみこ

    福岡県生まれ。梅光女学院大学短期大学部日本文学科卒業。FM局アナウンサーを経て昭和63年オーハシヨースケ氏と共に芸術劇団「TAICHI-KIKAKU」を主宰。劇作・演出・パフォーマーとして世界24か国50都市で海外公演を行う。平成28年より相撲部屋おかみに専念、裏方として夫を支え、力士の育成に尽力する。近著に『千年おかみの哲学』(致知出版社)がある。

    弟子が運んでくれた幸せを噛み締めて

    ──いま常盤ときわやま部屋で力士の育成に励むお二人は、閉鎖の危機にあったうら部屋を10年前に引き継いだのを皮切りに、様々な試練を乗り越えてこられました。

    常盤山 この3月で、65歳の僕は師匠として停年を迎えます。
    もともと自分が入門したふたやま部屋の部屋付き親方として指導に携わってきて、思いがけず千賀ノ浦部屋を継いだのが平成28年、55歳の時です。それはそれは中身の濃い10年でした。正直、僕は自分で部屋を持つタイプではありませんでした。だけどいまは、引き受けて本当によかったな。

    モリムラ つらいこともあったけど、いいこともたくさんあったよね。引き継いだ千賀ノ浦部屋で出逢ったたかしょうせきわけまで行って、いまも活躍していますし、閉鎖が決まった貴乃花部屋から引き取ったたかけいしょうは、大関にも昇進して幕内優勝4回という快挙を成し遂げてくれました。

    常盤山 そう。弟子が幸せを運んできてくれた。今年(2026年)初場所で僕は一旦役目を終えますけど、貴景勝改めみなとがわ親方が部屋を継いでくれるので、湊川部屋付きの参与として引き続き皆を見守れるんです。

    モリムラ これまで、行き場を失いかけた力士や裏方さんを引き受け続けてきた親方に、自分の部屋から後継者が現れたのは、神様からのごほうかなと思っています。

    「千年分の苦労」を引き受けたおかみ

    モリムラ 一昨年の暮れ、致知出版社から上梓じょうしした『千年おかみの哲学』は、そんな常盤山部屋という一つの相撲部屋で実際に起きたことを描いた物語です。
    初めは10年前、ある日突然、相撲部屋のおかみになって、毎日毎日必死に歩む中で、嬉しいことも悲しいことも、手帳に書き留めていたのがきっかけです。
    手帳を見返してそれを文章にしていくうちに、一つの相撲部屋の話ではあるけれど、他者をかばう気持ち、本当の優しさ、人情。そういう現代人が見失いがちなものがお伝えできるんじゃないか、と思い始めました。
    いざ本が出て、男女問わず一番多くいただくのが「読んでいて何度も涙が出た」「らんばんじょうすぎて、中断できず一気に読みました」という声です。全国から部屋に感想文が届くんです、達筆なお手紙も50通ほど。メールや電話もありますね。

    常盤山 当時の様子がありありとよみがえってきて、本から遠のいていた僕も2日で読み切りました(笑)。

    モリムラ ある時、親しくしていたベテランの女性相撲ライターさんにこう言われました。
    「ルミコおかみさんほど、苦労されているおかみさんは見たことがありません。まるで1,000年分の相撲部屋の苦労を引き受けているみたい……」
    一つの相撲部屋が続くのは、30年くらい。1,000年ってどれくらいの苦労なのよ、って笑っちゃいました。それが書名の由来です。
    相撲部屋のおかみは、親方や力士、裏方さんが所属する相撲協会に籍を置くわけでもない、あいまいな立場です。でも、一度その立場になれば、日夜部屋のために様々な面でふんこつさいしんが求められる仕事。その目で描いた物語が、皆さんの心に響いたのなら嬉しいですね。

    「皆を幸せにするために、必死で取り組んできたら、宝石のような幸せの中に辿り着くことができました」